Performing of Kato Hiroyuki on PB
カトウ・ヒロユキ(後方かかえ込み2回宙返り1回ひねり下り)は平行棒からムーンサルトで下りるというG難度の終末技です。旧サイトでは本家本元の記事を書いていますが、今回はこのカトウ・ヒロユキの捌き方に着目してみたいと思います。
カトウ・ヒロユキ Double Back 1/1

つり輪や鉄棒と異なり、平行棒の終末技は(棒端から前方に飛び出すものを除き)左右どちらかに飛び出さなくてはならないため、ひねりの方向の左右と掛け合わせると捌き方には4とおりのパターンがあることになります。全て実施例がありますので一つずつ見ていきます。
右下り・右ひねり Dismount:R Twisting:R
本家本元、加藤裕之の実施です。平行棒の右側に下りる右下りで、ひねりは右ひねりです。
右下り・左ひねり Dismount:R Twisting:L
2006年世界選手権・オーフス大会における若き日のマルセル・ニューエン(ドイツ)の実施。右下り、左ひねりで、同じ捌き方をする選手にイリアス・ジョルジオウ(キプロス)らがいます。
左下り・右ひねり Dismount:L Twisting:R
アカシュ・モディ(アメリカ)の実施。左下り、右ひねりで、ジョン・オロスコ(アメリカ)もこの捌き方で実施したことがあります。
左下り・左ひねり Dismount:L Twisting:L
2004年アテネオリンピックにおける中野大輔の実施。種目別決勝で披露したとっておきの技でした。左下り、左ひねりで、オレグ・ベルニャイエフ(ウクライナ)や肖若騰(中国)もこの捌き方で実施したことがあります。
4とおりの捌き方とは書きましたが、右下り・右ひねりと左下り・左ひねり、右下り・左ひねりと左下り・右ひねりは動きが対称になるので、実質的にはパターンは2とおりです。
注目したいのはバーの外側に飛び出して、最初の1/4をひねった局面です。右下り・左ひねりと左下り・右ひねりを見てみると、バーの右側(左側)に飛び出した後に、左(右)にひねるため、1/4ひねった局面では身体の正面がバーの方を向くことになります。折り曲げた膝も身体の前方に出るためバーへの接触の危険性が高く、恐怖心も大きくなるのではと思えます。
一方、右下り・右ひねりと左下り・左ひねりの場合は、バーの右側(左側)に飛び出した後に、右(左)にひねるため、1/4ひねった局面では身体の正面はバーと反対側を向くことになり、感覚的にはバーから遠ざかるように感じられるのではないかと推測します。
最初の加藤裕之の動画以外は、実施後のスロー映像もあります。ニューエンの動画では0:43あたりから真上からのスローがありますが、1/4ひねった局面では膝や腕はまだバーの内側にあることが分かります。バーへの接触を避けるためには十分な高さで飛び出す必要があるでしょう。この2とおりの捌きは、別の技とまでは言いませんが、少なからぬ違いがあるように思えます。
とは言え、右下り・左ひねりや左下り・右ひねりの捌き方がレアかというと、実はそうでもなさそうです。カトウ・ヒロユキの使い手はそれほど多くはありませんが、手元の集計では右下り・右ひねりと左下り・左ひねりの捌きと比べ、出現数は半々程度といった感じで有意な差は見られません。
下りもひねりも、選手が各々優位としている方向があり、容易に変え難いことは分かりますが、カトウ・ヒロユキという高難度の終末技において、この2とおりの捌きが何事もないように併存していることはちょっとした驚きでした。
2025年版採点規則でもカトウ・ヒロユキはG難度のまま。平行棒の終末技としては最高難度です。G難度の終末技は、他に前方かかえ込み2回宙返り1回ひねり下り(ラルドゥエ)と棒端懸垂前振り後方かかえ込み3回宙返り下りがありますが、どちらも超レア技であり、最高難度の終末技としてはカトウ・ヒロユキが一番よく見られる技であることは次期サイクルも変わらないでしょう。終末技の倍付けもあり、現在より実施例が増える可能性もあります。下りの方向、ひねりの方向には今後も注目しておきたいと思います。
この記事へのコメント
joshiki
ご紹介の捌きは前方ダブルハーフ降りやラルドゥエにも言えそうですね。平行棒は器具に対して横に降りるから捌き方の違いが出るんですね。
こういった考察系の記事が好きなので色々な技でもやってもらいたいです。
Ka.Ki.
前方ダブルひねり系の技は、技の後半、着地の直前にひねる捌きが一般的なのであまり問題にならないと思うのですが、カトウ・ヒロユキの場合はバーから飛び出してすぐにひねり始めることになるので、ひねりの方向がけっこうな問題になっているものと思われます。
考察系の記事はなかなか書けないのですが、今後も気になることがあれば書いていきたいと思います。ありがとうございます。
joshiki
確かに仰る通り一般的にはダブルハーフの場合バーからの横移動中はほとんど宙返りの局面ですね。言われるまで頭から抜けてました。
ラルデュエトはサンプルが少ないですが、いずれ似たような話になりますかね。
考察系の記事についてですが、個人的には最終的な回転とひねりの数が同じなら同じ難度になって然るべきか、反対に数が違っていても同じ難度にするのは適切かと言ったところをみてみたいです。
以前の記事ではツカハラとカサマツ、イポリト、半ひねり少ないリセグァンなど面白ろかったので…。
主様の無理にならない範囲で結構です。楽しみにしています。
Ka.Ki.
ここでちょっと書いてしまうと、基本的には回転とひねりの数が同じなら、同一枠同難度で然るべきかと思います。難しさに差はあるかもしれませんが、そのどちらとも区別できないような捌きが登場する場合もありますので。もちろん、いろいろ例外もあるとは思いますが。