2024 Olympics TF Review
2024年パリオリンピックの団体決勝は日本が奇跡的な逆転劇で2大会ぶりの金メダルを獲得しました。予選1位通過で決勝でも圧倒的な力を見せていた中国はまさかの銀メダル。予選5位通過のアメリカがやはり得点を伸ばし4大会ぶりの銅メダルとなりました。
日本は2021年東京オリンピックで悔しい思いをした団体メンバーの橋本大輝、萱和磨、谷川航に加え、これまで何度も代表の座を逃していた杉野正尭、右膝前十字靭帯断裂を乗り越え初の代表入りを果たした弱冠20歳の岡慎之助という最強メンバー。対する中国もオールラウンダーの張博恒、肖若騰に、スーパースペシャリストの鄒敬園、劉洋、そしてリザーブから上がってきた蘇煒德という超強力メンバーでした。団体決勝の得点について振り返っていきたいと思います。
あらためて3チームの結果を確認しておきましょう。日本、中国、アメリカの決定点とDスコアは以下のとおりです。
日本 JPN | |||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
橋本大輝 | 14.633 | 13.100 | 14.900 | 14.566 | |||
6.0 | 6.0 | 5.6 | 6.0 | ||||
岡慎之助 | 14.633 | 14.133 | 14.866 | 14.433 | |||
5.9 | 5.9 | 6.5 | 5.9 | ||||
萱和磨 | 14.000 | 14.366 | 14.000 | 14.733 | |||
5.7 | 6.3 | 5.8 | 6.3 | ||||
杉野正尭 | 14.866 | 14.700 | 14.566 | ||||
6.5 | 5.6 | 6.6 | |||||
谷川航 | 14.500 | 13.833 | 14.766 | ||||
6.0 | 5.6 | 6.3 | |||||
Total | 43.266 | 42.332 | 42.633 | 43.433 | 44.365 | 43.565 | 259.594 |
17.6 | 18.8 | 17.7 | 16.8 | 19.1 | 18.5 | 108.5 | |
中国 CHN | |||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||
劉洋 | 15.500 | ||||||
6.5 | |||||||
蘇煒德 | 14.333 | 12.766 | 11.600 | ||||
6.2 | 5.2 | 5.5 | |||||
肖若騰 | 13.966 | 14.333 | 14.800 | 14.733 | 13.433 | ||
5.8 | 5.9 | 5.6 | 6.0 | 5.8 | |||
張博恒 | 14.233 | 14.433 | 14.833 | 14.533 | 15.100 | 14.733 | |
6.1 | 5.7 | 6.0 | 5.6 | 6.4 | 6.3 | ||
鄒敬園 | 14.800 | 14.933 | 16.000 | ||||
5.9 | 6.4 | 6.9 | |||||
Total | 42.532 | 43.566 | 45.266 | 42.099 | 45.833 | 39.766 | 259.062 |
18.1 | 17.5 | 18.9 | 16.4 | 19.3 | 17.6 | 107.8 | |
アメリカ USA | |||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||
HONG | 14.133 | 14.533 | 14.833 | 14.400 | |||
6.2 | 6.0 | 6.0 | 6.0 | ||||
JUDA | 14.200 | 13.900 | 14.666 | 13.366 | |||
5.8 | 5.9 | 5.2 | 5.1 | ||||
MALONE | 13.700 | 14.166 | 14.533 | 14.433 | 14.166 | ||
5.7 | 5.9 | 5.2 | 5.9 | 5.8 | |||
NEDOROSCIK | 14.866 | ||||||
6.2 | |||||||
RICHARD | 14.466 | 14.033 | 14.566 | 14.833 | |||
6.0 | 5.6 | 6.2 | 6.4 | ||||
Total | 42.799 | 42.466 | 42.732 | 44.032 | 43.399 | 42.365 | 257.793 |
18.0 | 17.8 | 17.5 | 16.4 | 18.1 | 17.3 | 105.1 |
第1ローテーション。日本、中国はゆかから。萱は前半は着地が動きますが、後半はよく止めます。続く橋本は十字倒立、岡はマンナ倒立と予選で取れなかった技をしっかり取って予選より1.100高い得点をマークします。対する中国も全体的には安定した演技を見せ、日本と同じ予選より1.100高い得点。両者一歩も譲らぬスタートとなります。イギリスが得意のあん馬スタートだったため、日本は暫定2位、中国は6位、その差は0.734。
第2ローテーション。日本、中国はあん馬。萱はショーン、コンバインで少々乱れるものの直ちに立て直します。杉野は予選と同様コンバインはF難度に抑えて演技をまとめますが、続く橋本がなんとフロップでバランスを崩して落下。予選同様ウ・グォニアンも抜いたため13.100という低調なスコアとなってしまいます。対する中国は、鄒敬園が一糸乱れぬといった感じの演技。張博恒は難度を少し抑えますが、やや余裕のない演技。肖若騰はDスコアを抑えますが、安定した実施で決定点は予選よりも高い得点をマーク。中国得意のつり輪の前に差を付けておきたいところでしたが、逆に0.500の差を付けられてしまいます。つり輪、跳馬を終えたアメリカが暫定1位、中国が2位、日本が3位。
第3ローテーション。日本、中国はつり輪。中国は得意種目、そしてミスの出にくい種目です。日本は萱、岡、谷川、中国は鄒敬園、張博恒が予選と大きく差がない演技を見せます。そして中国3人目のスペシャリスト劉洋が予選からDスコアを0.1上げ、Eスコアも9.000を出して15.500という高得点をマーク。日本を突き放しにかかります。中国が暫定1位、日本は5位に後退。その差は3.133と大きく広がってしまいます。
第4ローテーション。日本、中国は跳馬。日本は杉野、橋本、中国は肖若騰、張博恒が予選と大きく変わらない跳越を見せますが、ともに3人目にアクシデントが待っていました。日本は谷川航がリ・セグァン2に挑みますが、やはり屈身姿勢が不十分でかかえ込みのドラグレスクと判定。問合せ(インクワイヤリー)も通りません。着地も低くなり、ラインオーバーも取られて13.833。中国も蘇煒德がドリッグスの着地で大きく乱れ、ライン外に手も突いてしまい12.766。中国は暫定1位をキープ、日本は4位。その差は1.799と少々縮まりましたが、苦しい状況が続きます。
第5ローテーション。日本、中国は平行棒。日本は萱、岡、谷川航がミスのない演技を見せますが、思ったよりも得点が伸びません。3人合計で予選より0.868も低い得点となってしまいます。中国も肖若騰、張博恒、鄒敬園の3人が予選より得点を伸ばせませんが、そこは得意種目。鄒敬園がここでも16.000を出し、日本を再び突き放します。中国は当然暫定1位。日本は2位に上がってきましたが、その差は3.267と大きく広がってしまいました。3位にアメリカが付けています。
第6ローテーション。日本、中国は鉄棒。アメリカはあん馬です。日本は杉野、岡が予選と大きく差がない演技を見せますが、中国は肖若騰の着地がやや乱れ、Dスコアもかなり低い値が出てしまいます。問合せ(インクワイヤリー)を経てDスコアは確保しますが、それでも13.433。そして中国の2人目、蘇煒德に大きな陥穽が待っていました。リューキンは決めたものの、伸身トカチェフとコールマンでともに落下。11.600というスコアになってしまいます。蘇煒德はポティウムトレーニング後の交替であり明らかに準備不足の感が否めませんでした。結果として2023年世界選手権・アントワープ大会に続く鬼門の鉄棒となってしまいました。
この時点で日本が大差を逆転。全ては最終演技者の橋本と張博恒に託されることになりました。先に演技するのは橋本。実施した構成はトカチェフとアドラー1回ひねりを抜いたDスコア6.0。ほぼ完璧な実施で14.566を出します。張博恒に必要な得点は15.266。予選は15.133でしたから非常に微妙な得点です。果たして、トカチェフは実施できず、予選よりもDスコアを下げて着地も1歩動いてしまいました。得点は14.733で、日本が大逆転の金メダルを手にしました。アメリカは最後にあん馬の1種目のためだけに登場したステファン・ネドロシックの好演技もあり、3位でフィニッシュしています。
こんなことが本当にあるのかという大逆転劇でしたが、団体メンバー全員が最後まで決して諦めず、つないでつないで手にした素晴らしい金メダルだったと思います。谷川航は跳馬では苦しみましたが、つり輪、平行棒では高得点をマークしました。杉野は任されたあん馬、跳馬、鉄棒で、これまで待たされた思いを演技に込め、見事なパフォーマンスを見せました。岡は弱冠20歳の若さながらミスのない安定した演技を続け、チームを支えました。萱は出場した全4種目でトップバッターを務めノーミスの演技を続けただけでなく、それ以外の場面でもキャプテンとしてチームを鼓舞し続けました。
そして今回、苦しんでいた橋本ですが、最後に圧巻の鉄棒を見せました。蘇煒德の落下で逆転トップに立ったあの場面で、実施した構成が高難度技のリューキンを入れつつ、連続技のトカチェフと減点要素が大きいアドラー1回ひねりを抜いたDスコア6.0。結果として、張博恒に15.266という高いターゲットスコアを提示することになりました。構成といい、決定点といい、ここまで完璧にハマってしまうものでしょうか。この橋本の鉄棒には正直恐ろしさすら感じてしまいました。
体操ニッポン、素晴らしい試合でした。金メダル本当におめでとうございます!
この記事へのコメント
Kato
あん馬での橋本選手の落下、吊り輪での中国の高得点、跳馬でのリセグァン2不認定、平行棒が終わった時点での大差など諦めたくなるような展開が盛り沢山で、SNSでも観るのをやめて寝てしまったりお風呂に入ってしまっている人が散見されました(笑)
そんな中でも諦めず、攻めのDスコアは維持しつつ、最後まで0.1を拾いに行く姿勢を貫いて演技を続けた日本の選手には感服するばかりです。
橋本選手は鉄棒で金メダルが掛かった場面や前の選手が大失敗した場面にこれまで何度も直面し、その上でいつも成功させてくれますが、本当に心臓が強いですよね。。
かみん
最終種目で中国に3点以上も離されて、中国がミスしてくれと願う展開になるのは、やはりいかがなものかと。一ファンとしては、ミスなく戦い抜き、終わればお互いに称えあうような演技を見たいものです。
今回中国は、鉄棒で11点台という、通常は考えられないような得点が出てしまいました。これはさすがに計算外でしょうが、逆に言えば、劉洋や鄒敬園といったポイントゲッターがきっちりと役割をこなせば、鉄棒で一度ぐらい落下してもなお、日本を捲れるということを意味します。
日本の強みは5人全員のハイレベルなバランスの良さということかもしれませんが、逆に言えば、一つでも大ミスをすれば取り返すのが極めて難しいということで、実は結構危ない橋を渡っていると思っていました。このあたりは今後の日本の体操界の課題ではないかな、と思います。
Ka.Ki.
ものすごい展開の団体決勝でした。日本は最後まで諦めず、奇跡的な勝利を手繰り寄せましたね。橋本は上がり調子だと思うので、今日の個人総合も期待したいです。
Ka.Ki.
日本と中国がともにミスのない18演技を揃えたら、やはり中国に分があったと思いますので、日本としてはとにかく0.1を拾う体操を続けて、相手のミスを待つという作戦だったと思います。結果としては日本にも大きなミスが出て、最後の最後で中国にさらに大きなミスが出てしまったわけですが。