Calculation of E-Score
Dスコアに続いて、演技実施の完成度を表すEスコアについても簡単に算出方法をまとめておきたいと思います。2022年のルール改訂では、各E審判のEスコアの算出方法はほとんど変わっていませんが、E審判の人数やR審判制の廃止など最終的なEスコアの算出方法は大きな変更がありました。
Dスコアが難度を積み上げていくことにより算出されるのとは対照的に、Eスコアは10点満点から減点していくことによって算出されます。減点される要素には実施欠点と技術欠点があり、減点の点数は程度により以下の4種類があります。
小欠点 中欠点 大欠点 落 下 0.1 0.3 0.5 1.0
基本的には、これらの減点は技術的に完璧な実施な実施からの
・小欠点 小さな、またはわずかな逸脱
・中欠点 明らかな、または大きな逸脱
・大欠点 重大な、または極端な逸脱
であり、落下は着地での転倒を含みます。
減点項目はここで全てを網羅することはできませんが、実施欠点には
・あいまいな姿勢(小欠点または中欠点)
・手や握り手の位置を調整、修正する(小欠点)
・倒立で歩く、またはとぶ(小欠点)
・ゆか、マット、または器械に接触(触れる:小欠点、ぶつかる:大欠点)
・腕、脚を曲げる、脚を開く(小欠点または中欠点または大欠点)
・着地で脚を開く(肩幅以下:小欠点、肩幅を超える:中欠点)
・着地でぐらつく、小さく足をずらす、手を回す(小欠点)
・不安定な着地(1歩動く:小欠点、大きく1歩:中欠点)
・無価値な開脚(中欠点)
などがあります。
また、技術欠点には
・倒立などでの角度の逸脱(15°~30°:小欠点、31°~45°:中欠点、45°超:大欠点+D審判によって難度不認定)
・正しい静止姿勢からの角度の逸脱(15°まで:小欠点、16°~30°:中欠点、31°~45°:大欠点、45°超はD審判によって難度不認定)
・ひねり不足(30°まで:小欠点、31°~60°:中欠点、61°~90°:大欠点、90°超はD審判によって難度不認定)
・宙返りや手放し技で高さや大きさ不足(小欠点または中欠点)
・力技を振動で、振動技で力を使う(小欠点または中欠点または大欠点)
・静止時間不足(2秒未満:中欠点、静止しない場合は大欠点+D審判によって難度不認定)
・上昇運動が途切れる(小欠点または中欠点)
・倒立への技で、脚が下がる(15°まで:小欠点、16°~30°:中欠点、31°~45°:大欠点、45°超はD審判によって難度不認定)
・中間振動(半中間振動または無価値な振り下ろし:中欠点、中間振動:大欠点)
・準備局面で体の開きがない着地(小欠点または中欠点)
などがあります。
種目に特有の減点項目もあり、例えば、ゆかでは「コーナーへの単純なステップや移動」が減点となりますし、つり輪では「過度のケーブルの揺れ」が減点となります。
採点競技なので、姿勢や角度などは審判によってどの程度の減点になるのか判断が分かれる場合があります。このためEスコアは複数の審判によって採点されその平均を取ることで算出されます。
2009年まで、FIG公式の競技会のうちオリンピックや世界選手権においては、E審判は6人制で最も高い得点と最も低い得点を除外し、4人の得点の平均点をEスコアとしてきました。
2009年までの例
E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | E6 | Eスコア |
---|---|---|---|---|---|---|
9.5 | 9.4 | 9.5 | 9.4 | 9.450 |
2010年にはRJ(Reference Judge)制が導入されました。これはE審判5人、R審判2人によって採点されるものです。これまでどおりE審判の最高点と最低点を除外し3人の得点の平均点(EJスコア)が算出されますが、このスコアと2人のR審判の平均点(REスコア)との差(デルタ)が一定の値以上になったときは、EJスコアとREスコアをさらに平均して最終的なEスコアを算出していました。また、2人のR審判の得点に一定以上の差があったときはREスコアは無効となりEJスコアがそのままEスコアになっていました。
2010-2021年までの例1
E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | EJスコア | R1 | R2 | REスコア | デルタ | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9.0 | 9.0 | 8.9 | 8.966 | 9.1 | 9.0 | 9.050 | 0.084 |
2010-2021年までの例2
E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | EJスコア | R1 | R2 | REスコア | デルタ | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9.0 | 9.0 | 8.9 | 8.966 | 9.1 | 9.2 | 9.150 | 0.184 |
2010-2021年までの例3
E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | EJスコア | R1 | R2 | REスコア | デルタ | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9.0 | 9.0 | 8.9 | 8.966 | 8.9 | 9.4 | 9.150 | 0.184 |
デルタの値やR1とR2の差についても細かく定められていたのですが、詳細は2017年の記事を参照してください。
そして2022年のルール改訂では、R審判は廃止され、E審判7人による採点に改められました。高い得点2人と低い得点2人を除外し、中間3人の得点の平均点をEスコアとするようです。
2022年からの例
E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | E6 | E7 | Eスコア |
---|---|---|---|---|---|---|---|
8.5 | 8.4 | 8.4 | 8.433 |
個人的には、せっかくR審判を廃止するなら、2009年以前のようにE審判6人制にして決定点に端数が出ないようにしてほしかったところです。7人中4人もの得点が除外されるというのもちょっと違和感を感じます。今後も3人の平均点ということで、8.433(小数第4位切捨)のような割り切れないEスコアは継続されることになります。Eスコアの端数処理の問題については、旧サイトの記事を参照してみてください。
なお、FIG公式の競技会でもオリンピックや世界選手権以外の国際大会ではE審判4人制で採点されることもあります。
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