Dスコアの算出方法

Calculation of D-Score


2017年にも書いた記事ですが、2021年東京オリンピックが終わりルールも新しくなりましたのであたらめて確認しておきたいと思います。2024年パリオリンピックでも適用されることになるルールです。

体操競技における演技の決定点はDスコアとEスコアの合計によって算出されます。DスコアはDifficulty、すなわち演技内容の難しさを表したもので、EスコアはExecution、すなわち演技実施の完成度を表しています。

今回はDスコアの算出方法についてです。なお、跳馬については一つ一つの跳越技に対してDスコアが定められているので、ここでは跳馬以外の5種目(ゆか、あん馬、つり輪、平行棒、鉄棒)のDスコアの算出方法について説明します。



Dスコアを算出するためには、個々の技の難度を把握しておかなければならないことは当然ですが、その前に各種目のあらゆる技がI~IVの4つのグループに分類されている[1]ことを理解しておかなくてはなりません。例えば、鉄棒の技のグループは、

I懸垂振動技Long Swing
II手放し技Flight
IIIバーに近い技・アドラー系の技In Bar
IV終末技Dismounts

となっています。ちょっと分かりにくい言葉もありますが、グループIは車輪系の技、グループIIIのバーに近い技とはシュタルダーやエンドーのような技です。手放し技は数多くの技がありますが全てグループIIです。

[1] ゆかは終末技のグループ(IV)がないためI~IIIの3グループに分類されています。



本題に入りましょう。Dスコアは難度価値点(DV)、組合せ加点(CV)、要求グループ点(EGR)の合計によって算出されます。

難度価値点は、難度の高い9技と終末技の合わせて10技(以下、トップ10技)の価値点の合計点です。同一グループの技は5技まで認められます。同じ技(難度表における同一枠の技)を繰り返してもDスコアには計上されません。各技の価値点は以下のとおり。

難 度ABCDEFGHI
価値点0.10.20.30.40.50.60.70.80.9

組合せ加点は、ゆかと鉄棒において適用されます。組合せ加点に関与する技はトップ10技に含まれる技でなければなりません。

ゆかの組合せ加点は以下のとおりとなっています。ただし、切り返しの組合せには加点が与えられない、ひねりを伴う1回宙返り同士の組合せには加点が与えられない、大欠点を受けた場合は加点が与えられないといった制限があります。
D難度以上+B・C難度=0.1(逆も可)
D難度以上+D難度以上=0.2

鉄棒の組合せ加点は以下のとおりとなっています。
手放し技手放し技
C難度+C難度以上=0.1(逆も可)
D難度以上+D難度以上=0.2

アドラー系の技手放し技
D難度以上+D難度=0.1
D難度以上+E難度以上=0.2

要求グループ点は、各グループの技を最低1つは演技に含めることを目的とするものです。I~IIIの各グループの技が演技に含まれていれば各0.5点が、終末技(グループIV)はD難度以上について0.5点が与えられます。終末技がC難度の場合は0.3点、A・B難度の場合は0.0点となってしまいます。したがって、要求グループ点は最大で2.0点となります。

つまり、演技はトップ10技を各グループ1技以上5技以内でバランスよく構成し、終末技はD難度以上であることが要求されているということになります。



それでは、橋本大輝の2022年全日本選手権の鉄棒を例に、具体的にDスコアの算出方法を確認してみましょう。


鉄棒の演技の採点は選手の足がマットから離れた時点から開始されます。この演技で橋本が実施している技は繰り返しを除くと以下のとおり。

技名難度グループ
1.後ろ振り上がり倒立AI
2.前方車輪AI
3.アドラーひねりDIII
4.~リューキンFII
5.後方車輪AI
6.カッシーナGII
7.コールマンEII
8.伸身トカチェフDII
9.~トカチェフCII
10.後方車輪ひねりAI
11.アドラー1回ひねり逆手EIII
12.前方車輪ひねりAI
13.シュタルダーBIII
14.後方とび車輪1回ひねりCI
15.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV


ここから難度の高い9技と終末技の合わせて10技を抜き出すと以下のとおりとなります。

技名難度グループ
1.アドラーひねりDIII
2.~リューキンFII
3.カッシーナGII
4.コールマンEII
5.伸身トカチェフDII
6.~トカチェフCII
7.アドラー1回ひねり逆手EIII
8.シュタルダーBIII
9.後方とび車輪1回ひねりCI
10.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV

A難度技は消えました。同一グループの技は5技以内に収まっています。


アドラーひねり~リューキンには0.2の、伸身トカチェフ~トカチェフには0.1の組合せ加点が付きます。各技の価値点と組合せ加点を書き加えると以下のようになります。

技名難度グループ価値点組合せ加点
1.アドラーひねりDIII0.4
2.~リューキンFII0.60.2
3.カッシーナGII0.7
4.コールマンEII0.5
5.伸身トカチェフDII0.4
6.~トカチェフCII0.30.1
7.アドラー1回ひねり逆手EIII0.5
8.シュタルダーBIII0.2
9.後方とび車輪1回ひねりCI0.3
10.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV0.5
Total:4.40.3

要求グループ点は、I~IIIの各グループの技が含まれ(0.5点×3グループ)、終末技はD難度以上(0.5点)なので満額の2.0点が与えられます。したがって、

難度価値点4.4
組合せ加点0.3
要求グループ点2.0
Dスコア(合計)6.7

となります。



Eスコアは複数の審判によって採点されその平均を取ることで算出されますが、Dスコアは一つの演技に対し必ず固有のDスコアが求められるはずです。しかし審判も人間ですから間違えることがないとは限りませんし、選手が大きなミスや曖昧な実施をするなどした場合は判定に迷うこともあるでしょう。

そのためオリンピックや世界選手権を始めとするFIG公式の競技会においてはD審判が2人配置されることになっており、共同してDスコアを判定することになっています。

さらに、FIG技術委員が務める各種目のスーパーバイザーが算出したDスコア(ASスコア)との間に一定以上の乖離が発生した場合は、直ちに得点算出システムが停止してスーパーバイザーの介入が行われることになっています。D審判が算出したDスコアをDJスコアとしたとき、その対象となる得点差は以下のとおりです。

・予選ASスコアよりもDJスコアが0.3高い、または0.5低い
・団体決勝、個人総合ASスコアよりもDJスコアが0.2高い、または0.5低い
・種目別決勝ASスコアよりもDJスコアが0.1高い、または0.5低い

この記事へのコメント