2022年世界選手権代表選考の行方は

2022 JPN Team Selection


2022年の世界選手権は10~11月にかけてイギリスのリバプールで開催されます。東京オリンピックが1年延期され、新ルールになったばかりの2022年ですが、今年の世界選手権の団体決勝では上位3チームが早くも2024年パリオリンピックの団体出場資格を得られるなど、重要な位置付けの大会となっています。

2022年世界選手権・リバプール大会の代表枠は5人。東京オリンピックの代表は団体が4人、個人枠が最大2人でしたが、再び団体代表5人に戻ります。このうち3人は東京オリンピックの金メダリスト・橋本大輝と、5月のNHK杯で2位、3位に入った神本雄也土井陵輔に決定しています。残りの2人は6月18~19日に開催される全日本種目別選手権の結果を受けて選出されます。今回は、今年の代表選考の方法をおさらいし、現時点での状況を確認しておきたいと思います。



代表選考の方法は日本体操協会公式サイトこちらのPDFに簡潔にまとめられています。これによれば4人目と5人目の代表は、すでに決定している3人との組合せで5-3-3制によるチーム得点が最高となる2人が選出され、その内1人はNHK杯10位以内の選手とされています。

チーム得点は、すでに代表が決定している3人の得点は全日本個人予選、全日本個人決勝、NHK杯の3試合のうち、各種目高得点上位2つの試合の平均得点が用いられます。

そして残り2人のチーム得点はこれらの3試合と全日本種目別予選、全日本種目別決勝の5試合のうち、各種目高得点上位3つの試合の平均得点が用いられます。なお、跳馬は1本目の跳越のみが対象となります。

ここで5月30日に発表されたNHK杯の採点ミスについても触れておかねばなりません。報道によれば、大会後の採点検証で10位の北園丈琉の得点に要求グループ点の誤計算があり、本来より高い得点が出ていたことが発覚。このため特別措置として0.302差で11位だった三輪哲平も10位以内の選手として扱われ、全日本種目別の予選にも希望種目でエントリーできることになりました。ただし、NHK杯の得点や順位そのものは変更されません。


この条件をもとに、現時点での状況を確認しておきたいと思います。まず、ベースとなる橋本、神本、土井の得点ですが、3試合のうち各種目上位2試合の平均なので、以下のようになるはずです。一番左列の数字はNHK杯順位です(以下、同じ)。

FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.74914.983
2神本雄也13.93313.00014.64914.33315.23314.783
3土井陵輔14.59914.44913.28314.50014.53314.599
Total43.08141.76542.08143.76644.51544.365259.573


残り2人の選考に用いられる得点は、5試合のうち各種目上位3試合の平均です。全日本種目別を控えた時点では不確定要素が多すぎますが、あくまでも現時点での状況ということでここまでの3試合の単純平均を使い、チーム得点を算出してみます。

チーム得点が最高となる2人を一気に選ぶとなるとその組合せは膨大です。あらゆる組合せについてくまなく試算したわけではありませんが、NHK杯(三輪哲平を含む)11位以内の選手とそれ以外の有力と思われる選手の組合せによるチーム得点を算出したところトップ3は以下のようになりました。Totalの下段()は加わった2人の選手が上昇させたチーム得点、いわゆる貢献度です。

1st
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.74914.983
2神本雄也14.64915.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.50014.53314.599
5杉野正尭14.41114.722
15髙橋一矢14.08814.655
Total43.23643.17643.45344.15544.51544.365262.900
(0.155)(1.411)(1.372)(0.389)(3.327)

2nd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.74914.983
2神本雄也14.64915.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.50014.599
8谷川航14.05513.79914.92114.922
23長﨑柊人14.711
Total43.20343.47642.59744.35444.90444.365262.899
(0.122)(1.711)(0.516)(0.588)(0.389)(3.326)

3rd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.74914.983
2神本雄也14.64915.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.50014.599
8谷川航14.05513.79914.92114.922
9谷川翔14.700
Total43.20343.46542.59744.35444.90444.365262.888
(0.122)(1.700)(0.516)(0.588)(0.389)(3.315)

NHK杯上位の橋本、神本、土井の3人は平行棒、鉄棒がかなり強いため、ゆかから跳馬の4種目をフォローできる選手たちが有利になりそうです。特に、この試算では鉄棒で貢献度を稼げる選手はNHK杯出場選手の中には1人もいません。

上位となったのは杉野正尭谷川航谷川翔の3人に髙橋一矢長﨑柊人を絡めた組合せ。4番目以降の組合せも、谷川翔・髙橋、杉野・谷川航、谷川航・髙橋と続いており、軸となるメンバーは変わりません。

1番目の杉野・髙橋の組合せはともに2種目ずつを受け持ち、上位3人を上手くフォローしています。2番目の組合せは、谷川航が得意の4種目を受け持ち、あん馬を担当するのはなんとNHK杯23位の長﨑となっています。長﨑は3試合のあん馬で高得点を揃えており、この位置に飛び込んできました。1番目と2番目のチーム得点差はわずか0.001、実質的には差のない状態です。3番目は2番目と同じような組合せで、谷川翔があん馬を担当します。



ここで2019年にも行った各選手が全日本種目別で持てる力を最大限に発揮したという仮定を考えてみます。これは、全日本種目別の予選や決勝で、ここまでの3試合で出した最高点と同じ決定点を出したとするものです。もちろん全日本種目別にエントリーしていない種目ではこれ以上得点を伸ばすことはできませんし、決勝進出の資格がない選手・種目もあります。

この考え方について杉野正尭の得点を例に具体的に説明します。

5 杉野正尭
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全日本予選13.90014.60013.06614.60014.16613.500
全日本決勝13.83313.70013.13314.56613.96614.466
NHK杯14.16614.93312.96615.00014.10014.600
全日本種目別予選14.16614.93315.00014.600
全日本種目別決勝14.16614.93314.600
平均得点14.16614.93313.05514.86614.07714.600

この試算における杉野の平均得点は上記のとおりです。全日本種目別の予選と決勝の太字の得点はこの試算で仮定している得点です。杉野はゆか、あん馬、鉄棒は全日本種目別にフルエントリーしているため予選、決勝ともに得点が入っています。跳馬はNHK杯10位以内の選手として希望種目にエントリーしているもので決勝進出資格がありません。そのため予選のみに得点が入っています。つり輪、平行棒にはエントリーしていないため得点が入っていません。

そして全日本種目別の行に入っている得点はここまでの3試合の最高点です。フルエントリーの種目はここまでの3試合の最高得点と平均得点が同じになります。全日本種目別にエントリーしていない種目はここまでの3試合の平均得点がそのまま採用されることになります。

この条件によって求められる現時点で考えられる最大限の得点でチーム得点を算出したところトップ3は以下のようになりました。

1st
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.983
2神本雄也14.64915.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.50014.599
8谷川航14.25514.13315.11015.033
9谷川翔15.20015.400
Total43.40343.96542.93144.54345.66644.365264.873
(0.322) (2.200)(0.850)(0.777)(1.151)(5.300)

2nd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.14914.93314.74914.983
2神本雄也14.64915.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.500
5杉野正尭14.16614.93314.86614.600
9谷川翔15.20013.68815.400
Total43.31444.58242.48644.29945.38244.366264.429
(0.233)(2.817)(0.405)(0.533)(0.867)(0.001)(4.856)

3rd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.54914.31614.14914.93314.74914.983
2神本雄也14.64914.33315.23314.783
3土井陵輔14.59914.44914.50014.599
9谷川翔15.20015.400
15髙橋一矢14.16614.733
Total43.31443.96543.53143.76645.38244.365264.323
(0.233)(2.200)(1.450)(0.867)(4.750)


一転、谷川翔中心の組合せになりました。4番目以降の組合せも、杉野・谷川航、谷川翔・北園、谷川翔・三輪と続いており、谷川翔が軸となっています。谷川翔はここまでの試合、あん馬や平行棒で15点台の爆発的な得点を出しており、この得点を全日本種目別でも出せればかなり有利になることが分かります。

谷川翔ともう1人ということになると最上位に来ているのが、兄の谷川航。得意の4種目でしっかり貢献度を稼いでおり、谷川兄弟2人での貢献度5.300は驚異的です。谷川翔との組合せによって平行棒で橋本を休ませることができるのは、得点には表れないところですが大きなポイントです。

2番目の杉野・谷川翔も魅力的な組合せ。あん馬の貢献度が2.817と非常に高く、ここで橋本を休ませることができます。3番目の谷川翔・髙橋も悪くない組合せです。

気になるのはNHK杯4位の萱和磨の名前がここまで一度も出ていないことです。ここまでの3試合でいくつかミスが出ていることは確かですが、最大限の得点を仮定しても上位にはまったく迫れませんでした。総合的に高い実力を持つ選手ですが、NHK杯3位以内に入れなかった時点で代表入りはかなり難しくなったと言えそうです。

なお、いずれの選手も、全日本種目別でここまでの3試合より高い得点を出した場合は、当然ながら貢献度はさらに上がる可能性があることに留意する必要があります。



言うまでもなく全日本種目別の結果次第でこの計算は大きく変わりえます。全日本種目別には1つの種目に懸けるスペシャリストはもちろんのこと、NHK杯上位のオールラウンダーもエントリーしており、代表入りを狙う選手が予選落ちして決勝に出られないことも十分に考えられます。

例年のことではありますが、あまりにも情報量の多い全日本種目別であり、ファンとしては一瞬も目が離せない大会になりそうです。

チェックは十分にしたつもりですが、間違いがあったらすいません。 また、代表選考の方法については、解釈に間違いがないとも限りませんし、このようなプロセスで選考されるのかどうかも分かりません。あらかじめご了承ください。

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