内村航平が現役引退を発表

Uchimura Retired


2022年1月11日、内村航平が現役を引退することを発表しました。

20220111_01.jpg

新ルールの内村航平の演技構成への影響などという記事を書いたばかりだったのでとても驚きましたが、なぜ?や意外!と言った思いはなく「そうか、決断したか」というのが率直な感想です。

思えば、2008年北京オリンピック:個人総合で銀メダルを獲得し世界に名を知らしめると、2009年からは怒涛の世界選手権連覇が始まりました。2011年世界選手権・東京大会では個人総合で史上初の3連覇、種目別5種目で決勝進出と無双ぶりを見せつけ、内村のピーク年と評価するファンも少なくありません。そして、2012年ロンドンオリンピックではついに個人総合の金メダルを獲得しました。

続くサイクルも内村の時代は続きました。2014年世界選手権・南寧大会:個人総合において全ての着地を止めたゆかの演技は今でも語り草です。2015年世界選手権・グラスゴー大会では、内村が常に目標に掲げていた悲願の団体優勝。そして2016年リオデジャネイロオリンピックでも団体、個人総合ともに金メダルを獲得。個人総合でのオレグ・ベルニャイエフ(ウクライナ)との激闘も話題となりました。

世界選手権6連覇、オリンピック2連覇の通算8連覇に加え、国内では全日本選手権10連覇(2008~2017年)、NHK杯10連覇(2009~2018年)という不屈の記録も達成し、国内外の個人総合で40連覇という大偉業も打ち立てました。いずれも今後、破られることのない金字塔であると思います。

2017年以降は負傷が続き、苦しい試合が続きました。2019年には2008年以降初めての代表落ち。2020年からは個人総合を断念し、鉄棒1種目に専念して東京オリンピックへの出場を目指しました。高難度のブレットシュナイダーを武器に、米倉英信らとの熾烈な代表争いを制して出場資格を獲得しますが、東京オリンピックではまさかのシュタルダーとび3/2ひねり片大逆手で落下。予選落ちとなってしまいました。しかし、生まれ故郷で開催された2021年世界選手権・北九州大会では予選をまとめて種目別決勝に進出。手放し技がバーに近づき得点は伸びませんでしたが、着地は本人曰く「会心の一撃」。ピタリと止めて大歓声を浴びました。



と、超駆け足で内村の軌跡を振り返りましたが、これらはどの報道でも伝えていることです。当ブログとしては、内村がこの10年余りの活躍によって築き上げた体操競技のルールや意識の変化に着目したいと思います。

ルールの面では、採点がEスコア重視に明らかにシフトしました。2006-2008年ルールの頃はかなりDスコア(当時はAスコア)重視であり、ルール変更の前年2005年に世界を制した日本の体操がいきなり通用しなくなりました。2008年北京オリンピックも日本は銀メダルでしたが、金メダルの中国との差は歴然だったのです。変化が生じたのは2013年のルール改訂の頃だったでしょうか。徐々にEスコアの採点が厳しくなり、着地時の足の動きなどの減点も明確に定められるようになりました。今日の鉄棒のEスコアはちょっと厳しすぎるのではと思うほどです。

意識の面では、優れた選手の多くが個人総合を目指すようになったと感じています。2009-2012年ルールの頃は海外では個人総合はあまり重視されていなかったように思えます。この頃のライバルと言えばフィリップ・ボイ(ドイツ)らが上げられますが、内村との差は明白であり2012年ロンドンオリンピックのときには内村は「2度落下しても勝てる」と評されていました。2013-2016年ルールの頃になると徐々に個人総合でも強者が現れ始め、2017-2021年の5年間は世界選手権・オリンピックの個人総合優勝者がすべて異なるという戦国時代的な様相を呈しています。

その他にも、細かいところではゆかの終末技としての後方宙返り3回ひねりの流行や、着地へのこだわりなど、国内外の選手に与えた影響は計り知れません。内村はこの10年余りの間、まさに体操界の中心であり続けました。

内村の打ち立てた個人総合の記録はおそらく今後も破られることはないでしょう。そして内村の正確で美しい演技はいつまでも人々の記憶に残るものと思います。記録と記憶に残る内村の活躍をリアルタイムで見られた日々は本当に幸せであったと思います。

内村航平選手、これまでお疲れさまでした。そして本当にありがとうございました。

この記事へのコメント

  • joshiki77

    こんにちはいつも楽しく拝見しています。
    遂にこの時が来ましたね。個人的には体操界の一つの転換期と思っています。
    私が体操ファンになったきっかけは、ロンドンオリンピックの時にNHKが放送した特集(ミラクルボディ)でした。とても衝撃的でひきつけられたのを覚えています。

    私目線での内村航平さんのすごさは演技構成のバランスの良さだと思います。ルール改正の度に一線を退く選手が多くいる一方で、内村航平さんの構成はどのルール改正にも対応できるところが本当にすごいと思います。以前このことについてKa.Ki様も記事にされていましたが、1度のルール改正ではなく2009年改訂、2013年改訂、2017年改訂の3回の改訂があったにもかかわらず、常に高い次元で対応できているのはそれだけでも称賛されるべきだと思います。
    アメリカのダネルレイバ選手は2017年改訂で平行棒のスペシャリストの称号をはく奪されました。似たような事例は各改訂の度に起こっていると思います。それらをクリアできたからこそ内村航平選手が世界のトップであり続けたのだと思います。

    Ka.Ki様やコメントされている方々とお会いして、内村航平さんについて語り合いたいとも思えるほどに書き尽くせません。

    最後に内村航平さんの演技で個人的に好きな演技を1つずつ各種目別に書きたいと思います。

    ゆか:2014年世界選手権南寧大会 個人総合決勝
     すべての着地を止めた伝説の演技
    あん馬:2011年世界選手権東京大会 種目別決勝
     落下がなければ優勝もあったのではと思わせる演技
    つり輪:2008年北京オリンピック 個人総合決勝
     あん馬の落下から逆転の序章の演技
    跳馬:2015年世界選手権グラスゴー大会 個人総合決勝
     跳馬の完成を世界に見せつけた演技
    平行棒:2013年世界選手権アントワープ大会 種目別決勝
     世界のスペシャリストに勝った究極の演技
    鉄棒:2016年リオデジャネイロオリンピック 個人総合決勝
     王者の着地で伝説となった演技
    2022年01月13日 00:37
  • Ka.Ki.

    いつもご覧いただきありがとうございます。

    ついにこの時がきてしまいましたね。本当に、将来この瞬間を境に内村以前と内村以後で語られる時代が来るかも知れません。演技構成やお好きな演技についても、全て仰るとおりで、うんうんと頷いてしまいました。

    今回の記事も全然書き足りないのですが、内村選手についてはどれだけ賛辞を並べても足りないので…。コメントありがとうございました。
    2022年01月14日 23:18