消えゆく技:正面水平懸垂経過の力技

Disappearing Elements : Front Lever to Strength Elements on SR


2022年版採点規則ではつり輪の正面水平懸垂経過の力技がごっそり削除されることになりました。

削除される技は以下の5技。ピネダ系とも言われる技群になります。
・ピネダ伸腕伸身正面水平懸垂経過十字懸垂
・ツカハラ2伸腕伸身正面水平懸垂経過脚上挙十字懸垂
・ペトロウニアス伸腕伸身正面水平懸垂経過十字倒立
・ファム伸腕伸身正面水平懸垂経過上水平支持
・バブサー伸腕伸身正面水平懸垂経過中水平支持

ピネダ以外は本家の実施動画を見ることができます。順番に見ていきましょう。

ピネダ 伸腕伸身正面水平懸垂経過十字懸垂

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発表者はトニー・ピネダ(メキシコ)。発表年は不明ですが、1989年版採点規則から今日まで難度表に掲載されている技です。本家の実施動画がないのでつり輪のレジェンド、ユリ・ケキ(イタリア)の2004年アテネオリンピックの動画を載せておきます。全盛期は過ぎていますが素晴らしい実施で銅メダルを獲得しました。ピネダの実施は水平?とも思ってしまいますが、このような傾向の実施が多い技でした。




ツカハラ2 伸腕伸身正面水平懸垂経過脚上挙十字懸垂

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発表者はツカハラ・ナオヤ(オーストラリア)。言わずと知れた2004年アテネオリンピック団体金メダリストの塚原直也ですが、当時はオーストラリア代表として出場していたため、あえてこのように表記します。発表されたのは2014年世界選手権・南寧大会(1)。2022年版採点規則ではリ・ニン系の技も全て削除されるためツカハラ(リ・ニン(リ・ニン2)脚上挙十字懸垂)(D)も削除されます。ツカハラの名の付く技はツカハラ3(脚上挙十字懸垂から引き上げ脚上挙支持)(D)のみが残ることになります。




ペトロウニアス 伸腕伸身正面水平懸垂経過十字倒立

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発表者は2016年リオデジャネイロオリンピックのつり輪金メダリスト、エレフテリオス・ペトロウニアス(ギリシャ)。2014年ヨーロッパ選手権・ソフィア大会で発表されています(1)が、この技が別の選手によって2009年に申請されたときは不認定(十字倒立(C)のみの認定)(2)と判定されており、そもそもが微妙な技ではありました。




ファム 伸腕伸身正面水平懸垂経過上水平支持

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発表者はファム・フオク・フン(ベトナム)。2015年世界選手権・グラスゴー大会で発表されました(3)。この時期はつり輪でこのような微妙な新技が次々と発表されていました。




バブサー 伸腕伸身正面水平懸垂経過中水平支持

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今日では平行棒の技で名が知られるラージ・バブサー(アメリカ)が発表した技。発表年は2001年頃ではないかと思われます。動画は2003年世界選手権・アナハイム大会から。ツカハラ2、ペトロウニアス、ファムの3技と比べると随分と前に発表された技になりますが、力技の組合せのみに加点が与えられた2001-2004年ルールが生んだ技とも言えるでしょう。



全体的に微妙な技が多く、削除されてしまうのも仕方のない技ばかりではありますが、個人的にはピネダくらいは残しておいてもいいのではとも思いました。また、つり輪の力技には他にも微妙な技がいくつもあり、削除されるべきはこの系統の技群だけではないのでは、という気もしています。以前から主張していることですが、個人的には「逆方向に戻る振動力技」が削除されたのと同様に「足先が真下を通過する力技」も整理されるべきではないかと考えます。

参考文献
(1) FIG MTC:Newsletter #28 (2015)
(2) FIG MTC:Newsletter #24 (2009)
(3) FIG MTC:Newsletter #30 (2016)

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