HASHIMOTO Daiki (JPN)
2021 Olympics (JPN) AA VT Judgements
個人総合の演技の紹介は来週からになるのですが、この件について先行して触れておきます。
今大会はSNSを通じての選手への誹謗中傷が大きな問題となっていますが、橋本大輝もこの被害者となってしまいました。個人総合の跳馬で橋本は右足が大きく1歩動き、片足ラインオーバーになりましたが、それでも14.700という得点が出たのはおかしいとして攻撃されたのです。
これに対しFIGは、採点が公正かつ正確であったというメッセージを発表。それは減点項目を列挙するという異例の内容でした。
FIG Statement: #Tokyo2020 #Olympics Men's #ArtisticGymnastics All-Around Final pic.twitter.com/uK642P2arm
— FIG (@gymnastics) July 29, 2021
内容はこんな感じでしょうか。
7月28日の個人総合で橋本大輝が跳馬で得た得点について多くのコメントが寄せられたため、FIGはこの採点が公正かつ正確であったことを確認したいと思います。FIGによって実施された競技後の分析は、審判団が現在の採点規則を適用したことを示しています。
橋本大輝が実施した跳越(伸身カサマツ2回ひねり)は採点規則に記載されているように5.6のDスコアが与えられます。
実施に関して、審判団は10点満点から減点します。
・第1局面におけるわずかな脚の開き:0.1
・伸身姿勢の身体のわずかな曲がり:0.1
・第2局面の空中姿勢におけるわずかな脚の開き:0.1
・着地の準備不足:0.1
・ひねり不足:0.1
・着地時の大きな1歩:0.3(最大控除)
さらに、片足ラインオーバーで0.1のペナルティが適用されました。
したがってFIGは、橋本が跳馬で得た14.700は採点規則に照らして正しいものであり、最終的な順位についても同様であると評価します。
E審判団は5人で構成されており、全員がこのような採点をしたとは限りませんが、まぁこういうことなのでしょう。FIGが演技の減点項目を公表することは極めて異例ですが、この問題に対する並々ならぬ意欲を感じ、評価できるものと言っていいと思います。選手への誹謗中傷が完全になくなるとは思えませんが、事態が少しでも沈静化することを願います。
ここからは、さらに少し踏み込みます。そもそもなぜ橋本の得点にここまで疑念が持たれたのか。これは、おそらく肖若騰(中国)が同じDスコア5.6の跳越を跳んで、橋本よりも着地小さな1歩で片足ラインオーバーだったにも関わらず、得点が橋本と同じ14.700だったからではないでしょうか。
しかし、着地の減点は小さな1歩が0.1、大きな1歩が0.3であり、この小さい、大きいの違いは足の大きさ1つ分の動きと定義されています。動きそのものは確かに橋本の方が大きかったですが、肖若騰の1歩も足の大きさ1つ分は超えており、橋本同様0.3の減点であったと考えることができます。
また、跳馬に限らずですが、宙返りの高さや大きさの不足も減点の対象となります。宙返りの高さや大きさを比較することはテレビ中継では難しいですが、橋本と肖若騰の2人の跳越については奇しくもNHKが大会前の特集番組で比較をしています。

橋本の雄大な跳越は国際的にも評価されており、この番組によれば、同じ跳越でも橋本の方が高さで22cm、飛距離で1m上回っているということです。このような跳越の高さや大きさの差も採点に影響している可能性があります。
さすがに橋本と肖若騰をここまで比較したメッセージを出すことは難しかったと思いますが、とにかくも体操競技の採点は基本的には公正かつ正確に行われており、恣意的な操作などはほぼ不可能なシステムとなっています。2012年ロンドンオリンピックの後にも書きましたが、この公正さ、正確さこそが「採点競技」である体操競技の命であり、これまで審判、選手、コーチといったあらゆる競技関係者が力を尽くして築き上げてきたものだと思います。これからも体操競技が公正かつ正確であり続けることを願います。
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