オリンピック団体代表選考の行方は

2021 JPN Olympics Team Selection


いよいよ6月5〜6日に開催される全日本種目別選手権でオリンピックの代表が決まります。

東京オリンピックの代表は団体代表が4人、それ以外に(団体出場資格がある国は)個人枠での代表が最大2人となっています。日本は2018年世界選手権・ドーハ大会で団体出場資格を得ており、4人の団体代表が2021年全日本選手権、NHK杯、全日本種目別選手権の3大会の結果により選出されます。

その選考概要は日本体操協会公式サイトこちらのPDFに簡潔にまとめられています。すでに4人のうち2人が全日本、NHK杯の2大会の結果により橋本大輝萱和磨に決定しており、残り2人が全日本種目別で選出されることになります。

今回はオリンピックの団体代表選考の方法をおさらいし、現時点での状況を確認しておきたいと思います。



残り2人の団体代表は例によって、橋本と萱との組合せで4-3-3制によるチーム得点が最高となる(いわゆる貢献度の高い)2人が選ばれます。その条件は、

● 3人目:NHK杯5位以内の選手から選考
● 4人目:次の条件のいずれかの選手から選考
・NHK杯10位以内
・NHK杯30位内かつ選出対象次点チームに合計1点以上の差で上回っている
・世界ランキング獲得選手(5試合中4試合3位以上かつ3試合1位以上。加えて3種目以上でチームに貢献)

となっています。

全日本、NHK杯の2大会を終えた現在の状況で4人目の条件の2つ目、3つ目に該当する選手がいるとは思えません。よって、NHK杯5位以内の選手とNHK杯10位以内による組合せのみについて確認していきます。

貢献度を算出するためのチーム得点は、橋本、萱の2人は

・全日本(予選・決勝)、NHK杯の3試合のうち各種目得点が高い2試合の平均得点の3倍

残りの2人は

・全日本(予選・決勝)、NHK杯、全日本種目別(予選・決勝)の5試合のうち、各種目得点が高い3試合の合計(跳馬は1本目の跳躍の得点)

で算出されることになっています。

ここでは分かりやすさを優先して、平均得点の3倍や3試合の合計得点ではなく、1試合の得点に換算して確認します。

まず、すでに団体代表を決めている橋本と萱の2人のチーム得点ですが、以下のようになるはずです。一番左列の数字はNHK杯順位です(以下、同じ)。

FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59913.86615.18314.93314.750
2萱和磨14.25014.86614.29914.51614.76614.399


残り2人の選考に用いられる得点は、5試合のうち各種目上位3試合の平均です。全日本種目別を控えた時点では不確定要素が多いですが、あくまでも現時点での状況ということでここまでの3試合の単純平均を使い、チーム得点を算出してみます。

NHK杯5位以内の選手とNHK杯10位以内の選手による組合せでチーム得点を算出したところトップ3は以下のようになりました。

1st
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59913.86615.18314.93314.750
2萱和磨14.25014.86614.29914.76614.399
3谷川航14.40014.03315.37714.900
6杉野正尭15.00014.63314.499
Total43.55044.46542.19845.19344.59943.648263.653

2nd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59915.18314.93314.750
2萱和磨14.86614.29914.51614.76614.399
3谷川航14.40014.03315.37714.900
5武田一志14.28914.24414.67714.022
Total43.58843.70943.00945.07644.59943.171263.153

3rd
FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59913.86615.18314.93314.750
2萱和磨14.25014.86614.29914.76614.399
3谷川航14.40014.03315.37714.900
4三輪哲平14.15514.77814.377
Total43.55043.62042.19845.33844.59943.526262.831


というわけでNHK杯3位の谷川航はどうやら安泰のようです。ゆか、つり輪、平行棒に加え、何より跳馬での高得点が効いています。2人目には4位の三輪哲平、5位の武田一志、6位の杉野正尭が絡むという構図になっていますが、現時点でのトップは6位の杉野。あん馬と鉄棒での貢献が大きく効いています。武田はつり輪で貢献していますが、それ以外の種目の貢献が杉野に及びません。

NHK杯で上位だった選手は軒並み全日本種目別に複数種目出場するため、まだまだどうなるかは分かりません。とは言え、谷川航、三輪、武田、杉野といった選手はこれまでの3試合で大きなミスがそれほど多くなく(だからこそNHK杯上位なのですが)、現時点の貢献度が大幅に変動する可能性は少ないと言えそうです。


しかし、全日本種目別での巻き返しに懸けている選手が1人います。NHK杯9位の北園丈琉です。全日本決勝の跳馬で大過失、そして鉄棒で落下し、右肘の剥離骨折、両肘靱帯損傷という重傷を負いましたが、回復を果たしNHK杯に出場。このときは一部の種目で構成を抑えていましたが、6種目を演技しきって9位に入り団体代表選出に望みをつなぎました。そして、全日本種目別では再びその力を見せてくる可能性があります。

北園は全日本種目別では6種目全てにエントリー(跳馬は決勝進出資格なし)。ここで絶好調だった全日本予選並みの得点を揃えると、谷川航との組合せで一気にトップに躍り出ることも可能です。仮定の仮定のような話になりますが、北園のみ全日本予選の得点を採用して、チーム得点を算出すると以下のようになります。

FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59915.18314.93314.750
2萱和磨14.86614.29914.399
3谷川航14.40014.03315.37714.900
9北園丈琉14.43314.73313.93314.70014.90014.633
Total43.73344.19842.26545.26044.73343.782263.971
※全日本予選の得点


なんと谷川航、杉野の組合せよりも0.3点もチーム得点が高くなりました。そして北園は6種目全てを演技という大活躍です。

やはり団体代表には復調した北園の力が不可欠と言えそうです。全日本種目別では、谷川航、杉野、そして北園に大注目です。



さて、ここでさらに仮定の仮定の仮定として、内村航平が団体代表選考に加わった場合を考えてみます。内村は鉄棒1種目に絞ってオリンピック出場を目指しており、団体代表選考には関わっていませんが、その鉄棒では全日本、NHK杯と高得点を連発しており、たとえ1種目限りであっても団体に貢献できるのではという声も聞かれます。

内村が加わった場合、もう1人はやはり谷川航となります。チーム得点を算出したところ以下のようになりました。

FXPHSRVTPBHB
1橋本大輝14.90014.59913.86615.18314.93314.750
2萱和磨14.25014.86614.29914.51614.76614.399
3谷川航14.40013.63314.03315.37714.900
内村航平15.322
Total43.55043.09842.19845.07644.59944.471262.991


というわけで、谷川航と杉野や武田の組合せには及びませんが、谷川航と三輪の組合せを上回るチーム得点を出しています。あくまでも計算上の話であり、規定上、内村の団体代表選出はありませんが、その力はまだまだ大きいものがあると言えそうです。



チェックは十分にしたつもりですが、間違いがあったらすいません。 また、代表選考の方法については、解釈に間違いがないとも限りませんし、このようなプロセスで選考されるのかどうかも分かりません。あらかじめご了承ください。

この記事へのコメント

  • にの

    複雑で中々誰が有力なのか一目で分かりづらい代表選考を、いつもこのようなわかりやすい記事としてまとめてくださってありがとうございます。本当に貴重でありがたいです。

    昨日の予選の結果を見ると、北園選手は本当に選ばれてもおかしくないところまで上げてきた感じでしょうか。あのケガからこの位置にいるのはすごいことですね。今日の決勝も楽しみです。

    あまり本質なところではないですが、最後の「もし内村選手が入ったら…」の得点で、萱選手の跳馬得点だけ抜けていますね。重箱の隅をつつくような指摘ですみません。

    これからも更新、楽しみにしております。
    2021年06月06日 01:16
  • Ka.Ki.

    ありがとうございます。少しでも参考になれば幸いです。

    北園選手選ばれましたね。負傷からの回復、そしてここ一番で力を出せる集中力、本当にすごいと思います。オリンピックでも期待したいですね。

    ご指摘ありがとうございます。修正させていただきます。
    2021年06月06日 21:55