あん馬の終末技はやり直した方がいいのか

Repeated Dismount on PH


前回の記事でも少し触れましたが、あん馬の終末技はやり直しが認められています。ちなみにその他の種目では終末技のやり直しは認められておらず、体操競技の中では異例のルールと言えるでしょう。

採点規則では「選手が落下や大過失により終末技が獲得できていないと判断した場合は、(1回だけ)終末技をやり直すことができる。」となっています。また、終末技のやり直しの例が3つ挙げられていますが、その内の例2の内容は以下のようになっています。

1回目
・演技:DSA倒立450°ひねり3/3移動
・結果:大欠点を伴う脚の下がり、そのまま倒立下りを完了
・D審判の評価:終末技の難度とグループなし
・E審判の評価:脚の下がりに0.5の減点と他の実施減点
2回目
・演技:所定の時間内にDSA倒立450°ひねり3/3移動をやり直し
・結果:やり直したDSA倒立450°ひねり3/3移動を減点なく成功
・D審判の評価:E難度(0.5)と終末技の0.5を加算
・E審判の評価:脚の下がりに対する0.5の減点は、落下に対する1.0の減点に変更。2回目の実施に見られた減点も加えられる

この例で面白いのは1回目のE審判の減点0.5が、やり直すと落下減点1.0に変更されるということです。いったいどういうことになるのでしょうか。果たしてあん馬の終末技はやり直した方がお得なのでしょうか。確認しておく必要がありそうです。



まずは1回目の実施でDSA倒立3/3移動下りなどのD難度技を狙ったとして次のようなパターンを考えます。Dスコア(難度)、Dスコア(要求)、Eスコアの減点は以下のとおりで、終末技に関わる部分の点数は合計のようになります。D難度認定(減点なし)の場合はもちろんやり直す必要はありませんが、参考に書いています。

D難度D要求E減点合計
D難度認定(減点なし)0.40.500.9
D難度認定(大欠点あり)0.40.5-0.50.4
C難度認定(大欠点あり)0.30.3-0.50.1
不認定(大欠点あり)00-0.5-0.5
不認定(落下)00-1.0-1.0


やり直した2回目の実施でD難度またはC難度の終末技を減点なしで決めたとすると、同様に結果は以下のとおりとなります。

D難度D要求E減点合計
D難度認定(減点なし)0.40.5‐1.0-0.1
C難度認定(減点なし)0.30.3-1.0-0.4


よって、1回目の実施が不認定となった場合は、やり直した方が(理論上は)得点が高くなることが分かります。一方、大欠点があっても難度が認められていれば、やり直しはしない方がいいようです。


最近の事例を2つ紹介します。まずは2019年個人総合ワールドカップ・シュトゥットガルト大会、三輪哲平の演技です。



この実施では倒立に上げられず下りています。明らかに不認定ですが、三輪はやり直しをしませんでした。このあん馬の得点が響き、この大会7位に終わっています。


続いて、2019年種目別ワールドカップ・バクー大会(AGFトロフィー)における今林開人の演技です。



この実施では倒立まで上げており、3/3移動の途中で乱れますが、何とか移動も完了して着地しているように見えます。今林はやり直しをしませんでしたが、これはD難度、あるいは少なくともC難度は取れているという判断だったかもしれません。しかし判定は「終末技なし」となり、大きくDスコア、そして決定点を落としてしまいました。やり直していれば上記の計算のように多少の得点アップが見込めていたかもしれません。

これらの事例から言えるのはあん馬の終末技は終始大きな乱れなく着地まで決めて、初めて認定されるであろうということです。2012年ロンドンオリンピック、団体決勝の内村のような終末技も現在は不認定となることでしょう。そして、不認定であろうと判断されるときはやり直しをした方が間違いなく得点アップにつながるものと考えられます。


わずかな点数の話をしていると思われるかもしれませんが、体操競技ではそのわずかな点差で順位が入れ替わることも珍しくありません。終末技をやり直すかどうかは選手やコーチの判断になりますが、倒立の角度などはコーチら周囲の方が客観的に把握できる場合も多いと考えられ、コーチ陣の判断力が重要になってくる場面と言えます。あん馬の終末技のやり直しは勝負を決する重大な要素であり、選手サイドの重要な権利であることを念頭に競技に臨む必要がありそうです。

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