白井健三のゆかのグループI

Group I Elements of Shirai's FX Routine


あけましておめでとうございます。今年は2020年東京オリンピックに向けて非常に重要な年となってきます。体操ニッポンの奮起を期待し、まずはこの記事から始めたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いします。



世界をリードし続ける白井健三のゆか。2018年世界選手権では優勝を逃しましたが、2013年以降これまで3回世界チャンピオンに輝き、その演技構成も絶えず進化を続けています。今回はこの白井のゆかの構成から「跳躍技以外の技」であるグループIの技に着目してみたいと思います。

お気づきの方も多いと思われますが、白井のゆかの構成において、グループIの技は幾度かの変遷を経ています。これは実施減点の可能性のほか、タンブリングの本数や対角線の使用回数といったゆかの使い方が関係しているものと考えられます。技の変遷、そして白井のゆかの使い方がどういうことになっているのか、動画と図で確認していきましょう。

図中、実線はタンブリング、点線はタンブリング以外の移動、GpIはグループIの技を表します。

2012年アジア選手権 2012 Asians


本格的な世界デビューを果たす前年の2012年までは力十字倒立(C)を使っていました。十字倒立は頭の位置が少し高いでしょうか。この時のDスコアは6.7ですが、同年の全日本種目別ではすでに7.0を出していました。


2013年世界選手権・アントワープ大会 2013 Worlds Antwerp (BEL)


力十字倒立ではやはり減点を免れないと判断したからでしょうか、2013年に入ると脚上挙から伸腕屈身力倒立(C)を使うようになります。

ゆかの使い方としてはタンブリング6本のうち対角線を使ったタンブリングが4本、辺を使った短いタンブリングが2本。グループIは3本目の後にコーナーで行っています。力十字倒立を行っていた2012年の構成もほぼ同じ動きとなっています。

20190104_01.png


2015年ワールドチャレンジカップ・コトブス大会 2015 World Challenge Cup Cottbus (GER)


2014年世界選手権で2位になると、白井はひねり技一辺倒であった構成に2回宙返りのビッグタンブリングを加えることを試みます。このDスコア7.6の構成を初めて通したのは2015年3月、動画のコトブス大会であったはずです。

対角線のタンブリングは5本になりました。当時のルールでは同じ対角線の連続使用は2本までに制限されており、対角線を5本使おうとすると2回コーナーを変えなくてはなりません。演技時間の関係もあり、グループIを移動しながら行える伸膝前転脚前挙支持経過倒立に替えてきたと考えられます。

20190104_02.png


2017年世界選手権・モントリオール大会 2017 Worlds Montreal (CAN)


2017年のルール改訂後はシライ3(H)とリ・ジョンソン(G)を入れた驚異的な構成となります。当初はひねり系の連続技に模索が見られ、4月の全日本で構成が固まったことはちょうど1年前に記事にしたとおりです。動画は同年10月の世界選手権。Dスコアは7.2と新ルールでも依然として圧倒的です。

タンブリングは6本全てが対角線。ルール改訂で側方宙返りがグループごと削除されたことも影響しているでしょう。一方、対角線の連続使用制限はなくなり、コーナーは1回変えるだけでよくなりました。短いタンブリングはないため、引き続き伸膝前転脚前挙支持経過倒立で移動を行っています。

20190104_03.png


2018年個人総合スーパーファイナル 2018 AA Super Final


2018年世界選手権はまたも2位と偶数年の世界選手権に縁がない白井。帰国後の国内大会、個人総合スーパーファイナルでは構成を一新。シライ2を入れた3連続は見るものを驚かせました。Dスコアは7.1と0.1下がりましたが、安定性を高めることを目指した構成です。

タンブリングは全て対角線ですが1本減って5本になったため、演技時間にも余裕ができたと考えられ、再びコーナーで脚上挙から伸腕屈身力倒立を行うようになりました。3本目のタンブリングの後、側転と前転でコーナーを移動しています。

20190104_04.png


使っているグループIの技はいずれもC難度でDスコアは変わりありません。以上から推測できるのは、白井としては演技時間やゆかの使い方が許するのであれば脚上挙から伸腕屈身力倒立の方がより安定した実施が見込めるのであろうということです。確かに伸膝前転脚前挙支持経過倒立ではまれに停滞や脚の下がりが見られることもありました。


白井のゆかといえば高難度のタンブリングであり、ひねり技の組合せなどは実に緻密に計算された頭脳的なもので感心することしきりなのですが、さらにグループIの技も疎かにすることなく0.1を拾うための不断の努力がなされていることに敬服するばかりです。2020年東京オリンピックの鍵を握る重要な選手の一人であることは間違いなく、今年も白井健三の一挙手一投足には注目し続けることになりそうです。

この記事へのコメント

  • ユーマォ

    なるほどです。
    そうなると、白井選手のゆかは既に完成されていて、後はその時の調子で調整をするばかりのレベルに達しているという印象です。
    格上げになっている前方ダブル系の技を入れるということも無いと思うので。
    あとは、Eをどれだけ高く安定させられるかですね。
    空中姿勢、着地、ひねりきり、倒立姿勢・・・D勝負の選手ですが、8点台後半の演技をして15点台半ばにのせられるのが理想ですね。
    2019年01月06日 19:16
  • 伸身ローチェ

     たんたらさんのブログでも投稿したのですが今回の変更前後で共通するのはどちらの技も「脚前挙支持経過倒立」の局面があり、その前の局面が片方が「倒立前転」もう片方が「脚上挙支持」という点で異なるのみ、という点が不思議でした。その時にたんたらさんも移動について言及されていましたがこの記事を読むと技の変更に納得がいきます。
     また「伸膝前転脚前挙支持経過倒立」は近年難度が格上げになった技、なので単純に「C難度の技の中では負担がB難度に比較的近いのでは」と思っておりました、なので白井選手も取り入れたのだと。しかし全体的に実施が少ないので不思議に思っていました。
     あまり注目されない床で使用するラインの制限ですが、きちんと演技構成に影響を与えていたのですね。
    2019年01月06日 22:31
  • Ka.Ki.

    >ユーマォさん
    確かに前方ダブル系はなさそうですね。

    2018年以降、15点台後半は出ていないので是非とも乗せてほしいと思います。
    2019年01月07日 22:44
  • マイコ

    2018年からはひねり不足や着地準備の減点が特に厳しくなった印象があります。
    また、白井選手自身、もともと足を前後にずらして着地する癖がありましたが
    総合重視になってからは特にそれが顕著となってしまい
    床のEが伸び悩む結果となっているのかなと感じています。

    願わくば、加藤選手、野々村選手、翔選手、北園選手といったバランス型選手に奮起してもらい、白井選手がスペシャリストよりにシフトできればと期待しています。
    (東京五輪の4-3-3ルールでは完全なスペシャリスト選手とはいかないでしょうが、、、)
    2019年01月09日 12:31
  • Ka.Ki.

    2017年までは15点台後半が出ていましたから明らかに厳しくなっていますよね。

    現状、東京オリンピックの4-3-3では白井選手はどうしてもオールラウンダーとしての働きを期待されるでしょうね。ご指摘のような選手が出てきて、白井選手がスペシャリスト的な役割に回れれば確かに理想的だとは思います。

    2019年01月09日 22:56