最近流行りの順手背面車輪

Czech Giant on HB


2018年に入ったあたりから鉄棒の順手背面車輪を目にすることが増えてきたように思います。日本でも萱和磨や谷川航、谷川翔といった順天堂大学のトップ選手が演技に取り入れるようになりました。今回はこの順手背面車輪について少し書いてみようと思います。


近年、鉄棒のEスコアが非常に厳しく出ている傾向がありますが、その原因の一つとして考えられているのがひねり技の角度減点です。鉄棒のひねり技(に限らずですが)は倒立で技を完了することが求められており、逸脱が15°以内であれば減点はありませんが、それ以上であれば相応の減点が課されます。このような状況にあって、より減点を受ける局面が少ない技として順手背面車輪がにわかに流行するようになったと考えられます。

順手背面車輪はシュタイネマンの名を残す「順手背面懸垂前振り上がり背面支持」から発展した技で、1955年に旧ソビエト連邦のパーヴェル・ストルボフが車輪の形態に持ち込むことに成功した(1)とされる歴史の古い技です。英語表記から日本では「チェコ式車輪」とも呼ばれますが、海外の実況では"German Ginat"の呼称もよく耳にします。

順手背面車輪がどのような技であるか、言葉で説明するより動画を見た方が早いでしょう。よく見られるのは以下のような実施です。ダヴィド・ベルヤフスキーを始めロシアの選手は以前から順手背面車輪を得意としていました。


この動きは図のように
・後方浮腰回転後ろ振り出し順手背面懸垂(C)
・順手背面車輪(D)
・ケステ(順手背面懸垂前振り上がり後方浮腰回転倒立)(C)
という3つの技で成り立っています。一気にC難度2つとD難度1つを得ることができるのも実施が増えている理由と考えられるでしょう。

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そんな順手背面車輪ですが、減点を受ける局面が全くないわけでは当然ありません。車輪は柔軟性のある伸びやかで雄大な実施が望ましいと考えられますし、ケステも決めが倒立から逸脱すれば減点を免れません。日本では石川大貴や動画の谷川翔が良好な実施を見せていると思います。




順手背面車輪はその特殊な形態ゆえ、前後に何らかの技を必要とし、複数の技で一連の動きを構成することになります。ここでは前後の技を入り技、抜き技と呼びますが、他にどのようなパターンがあるのか見てみましょう。

まずは入り技です。この動画ではヤマワキ(D)から順手背面後ろ振り出し(A)という技で順手背面車輪に入っています。ヤマワキからの巧みな方向転換は見ていて気持ちいいものがあります。



難度表にある入り技はこれくらいですが、上向き転向からのこんな実施もあります。カール・ミーダー(アメリカ)の演技。




続いて抜き技。ケステからひねって大逆手までいけばリホヴィツキー(D)という技になります。動画は本家のアンドレイ・リホヴィツキー(ベラルーシ)。この選手も以前から順手背面車輪を実施していました。



現在では全く見られませんが、かつては小野喬が開発したオノ(順手背面懸垂前振り上がりひねり支持)(B)という技もありました。このような支持で終わる技自体が今日の鉄棒では見ることがありません。



もはや抜き技という呼び方もおかしいかもしれませんが、手放し技につなげる実施もあります。動画はジェフ・ベンダー(アメリカ)の順手背面トカチェフ(C)。



順手背面ギンガーにはサプロネンコ(C)という名前が付いています。本家はエフゲニー・サプロネンコ(ラトビア)。順手背面からの手放し技は難度が格上げされることもないため、今日実施する選手はまずいません。



過去にはなんと終末技につなげてしまう動画もあります。ダレル・カーベル(アメリカ)という選手が順手背面車輪から1回ひねって下りています。現在のルールでは通常の車輪で下りるのと難度は変わらないということになるため、A難度になります。



難度表にある技で全く見ないのが、順手背面車輪ひねり倒立から前方車輪(D)。オノを倒立まで収めることに相当する技です。D難度が取れるため実施する選手が出てきてもよさそうです。

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順手背面懸垂前振り上がり両脚横抜き支持(懸垂)(B)も支持で終わるため見かけない技ですが、では、この技を倒立まで収めるとどうなるでしょうか。

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図のようにちょうど平行棒のディアミドフのような感じになるように思えます。完全な妄想技ですが、決まるとかなりかっこよさそうで、見てみたい気がします。

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参考文献
(1) 佐藤友久、森直幹:体操辞典, 道和書院 (1978)

この記事へのコメント

  • 伸身ローチェ

     順手背面車輪は本当に増えましたね、角度減点が少ないのはケステの最後で、車輪と体の回転の向きが逆で勢いがつきにくく倒立で止めやすいからなんでしょうか。でも動画のリホヴィツキーになるとひねって大逆手の宿命か流れ気味のようにも見えます。どこで技が完了して何度の逸脱とみられるのか、リバルコ好きとしては気になるところです。
     また順手背面車輪には入り技、抜き技があり何度も見たことがありますが逆手背面車輪には抜き技はないのでしょうか。うまくいけば
    アドラー(入り技):C難度
    +大逆手車輪:B難度
    +逆手背面車輪:C難度
    +抜き技:???
    で多くの技を入れられそうなのですが、この抜き技というのを実施でもCoPでも見たことがないように思います。難しいんでしょうか。
    2018年12月23日 19:38
  • Ka.Ki.

    ひねり技を3つやるよりは減点局面が少ないのではというだけで、ケステも倒立に収めるには相当な技術や熟練が必要とされると思います。

    逆手背面車輪は、肩転位して大逆手振り上がりで逆手に持ち換えるのが普通なので。1回ひねり(片)逆手という変わった技もないではありませんが。
    2018年12月23日 23:45
  • 名無し

    コメント失礼します。
    最近自分の周りでも順手背面の一連の技を練習、習得する選手が増えてきました。やはり順大勢の影響が大きいでしょうか。
    ただ熟練した捌きはやはり少なく、特に抜きの部分はかなり難しいようで(基本技であるシュタルダーの倒立に収める局面と似ていますが、感覚的には全く異なるようです)今のところ3分から5分の減点を喰らいそうな選手ばかりです。そんななか1人リホビツキーまで習得した選手がいましてこれが非常に上手い。しかも順手背面の抜きは倒立に収める技ですので15°以上の逸脱で減点を伴いますが、リホビツキーになると大逆手で終わる技になるので30°まで減点は無いことになります。今現在順手背面を実施していて、大逆手に高い位置で収めるのが得意な選手はリホビツキーを習得するのが点数アップに繋がるかも知れませんね。
    2018年12月24日 02:10
  • Ka.Ki.

    やはり抜き技に難しさがあるようですね。記事では簡単な記述にしてしまいましたが、仰るとおり大逆手は30°まで減点なしでなので、得意な選手はDスコア、Eスコアともに稼げる可能性がありますね。
    2018年12月24日 20:14
  • KR

    いつも楽しく拝見させていただいています。
    昔読んだ体操の本に順手背面車輪からひねって逆手背面車輪につなげる技が出ていました。実施した選手は見たことありませんが最近の流行からすると実施する選手がもしかしたら出てくるかもしれませんね。背面車輪での移行となる技ですがぜひ見てみたいです。
    2018年12月25日 15:05
  • Ka.Ki.

    >Gedさん
    ギンガー選手の動画だけに何度も見たことがあったはずでしたが、抜け落ちていましたね。
    2018年12月25日 23:32
  • Ka.Ki.

    >KRさん
    いつもご覧いただきありがとうございます。

    どうやって掴むのか想像もできないようなすごい技ですね。
    2018年12月25日 23:43
  • 昔、体操少年

    順手背面車輪、’56メルボルンでの小野先生が始祖だと思っていました。この技と片逆手振り上がり1回ひねり→上向き飛び越し、いわゆる「ひねり飛び越し」がこのときの金メダル獲得のキーだと言われていましたから…。
    抜きの方では小野先生は振り上がりでひねって翻転倒立につなげていますが、’76モントリオールで加藤澤男さんがひねってシュタルダーにつなげるのを発表しています。
    現在よく使われている「ケステ」は’68メキシコシティーで旧東ドイツのケステさんによるものですよね。このときの終末技、足裏支持前方振り出し前方宙返り下りは、’70年ごろにものすごく流行りましたっけ…。
    2018年12月26日 00:24
  • Ka.Ki.

    現在でもケステで倒立まで上がらずといった感じの実施からシュタルダーという動きをしばしば目にしますが、あれはどれだけ減点を伴うのか気になるところではあります。
    2018年12月26日 23:01