2018 JPN Team for Worlds
全日本種目別選手権が終わり、2018年世界選手権・ドーハ大会の代表選手が決定しました。すでに代表に決まっていた内村航平、白井健三の2人に加え、新たに決まったのは谷川航、田中佑典、萱和磨の3人。どのようなプロセスを経て選考された(と思われる)のか、確認しておきましょう。
代表選考の方法は前回記事にしたとおりです。おさらいになりますが、ベースとなる内村、白井の3試合のうち各種目上位2試合の平均得点は以下のとおり。前回同様、一番左列の数字はNHK杯順位です(以下、同じ)。
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.600 | 14.849 |
2 | 白井健三 | 15.433 | 13.600 | 13.549 | 15.000 | 14.566 | 14.049 |
そして全日本種目別を終え、NHK杯3位から12位までの10人の選手の5試合のうち各種目上位3試合の平均得点は以下のとおりとなりました。下線は全日本種目別に出場した種目、太字は全日本種目別で平均得点を上昇させた種目、下段()は上昇させた得点です。
FX | PH | SR | VT | PB | HB | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3 | 萱和磨 | 13.977 | 14.822 | 14.132 | 14.100 | 14.910 | 13.733 | |
(0.156) | (0.022) | (0.178) | ||||||
4 | 谷川翔 | 14.466 | 14.533 | 14.066 | 14.444 | 15.055 | 13.911 | |
(0.067) | (0.145) | (0.045) | (0.078) | (0.067) | (0.767) | (1.169) | ||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | 13.055 | |
(0.100) | (0.277) | (0.355) | (0.732) | |||||
6 | 千葉健太 | 14.244 | 14.432 | 13.855 | 13.977 | 14.966 | 13.722 | |
(0.055) | (0.256) | (0.311) | ||||||
7 | 田中佑典 | 14.044 | 13.466 | 14.144 | 13.377 | 15.266 | 14.655 | |
(0.089) | (0.145) | (0.122) | (0.356) | |||||
8 | 野々村笙吾 | 13.810 | 13.922 | 14.666 | 13.977 | 14.910 | 13.544 | |
(0.112) | (0.189) | (0.301) | ||||||
9 | 田浦誠也 | 13.944 | 13.821 | 13.433 | 14.433 | 14.599 | 14.088 | |
(0.023) | (0.122) | (0.145) | ||||||
10 | 前野風哉 | 13.455 | 13.755 | 14.344 | 14.277 | 14.099 | 14.066 | |
(0.122) | (0.178) | (0.111) | (0.411) | |||||
11 | 神本雄也 | 14.088 | 12.933 | 14.288 | 13.366 | 14.955 | 13.711 | |
(0.011) | (0.011) | |||||||
12 | 荒屋敷響貴 | 14.277 | 14.555 | 13.499 | 13.788 | 13.699 | 13.133 | |
(0.000) |
谷川翔が6種目全てにエントリーし、大幅に平均得点を上昇させていますが、意外にもチーム得点の高い組合せはトップ3は以下のようになりました。
1st | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.600 | 14.849 | ||
2 | 白井健三 | 15.433 | 13.600 | 15.000 | 14.049 | ||||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | | ||
7 | 田中佑典 | 14.144 | 15.266 | 14.655 | |||||
Total | 44.654 | 41.749 | 42.598 | 44.465 | 44.777 | 43.553 | 261.796 | ||
2nd | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.600 | 14.849 | ||
2 | 白井健三 | 15.433 | 15.000 | 14.049 | |||||
3 | 萱和磨 | 14.822 | 14.132 | 14.910 | 13.733 | ||||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | | ||
Total | 44.654 | 42.971 | 42.586 | 44.465 | 44.421 | 42.631 | 261.728 | -0.068 | |
3rd | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.600 | 14.849 | ||
2 | 白井健三 | 15.433 | 15.000 | 14.049 | |||||
3 | 萱和磨 | 14.822 | 14.132 | 14.910 | | ||||
4 | 谷川翔 | 14.466 | 14.533 | 14.066 | 14.444 | 15.055 | 13.911 | ||
Total | 44.498 | 43.605 | 42.331 | 43.910 | 44.565 | 42.809 | 261.718 | -0.010 |
なんとNHK杯5位の谷川航と7位の田中佑典の組合せがトップ。全日本種目別の大会前は第4位と、前回の記事では圏外にしていた組合せでした。本命だったNHK杯3位の萱和磨と4位の谷川翔の組合せは第3位にまで下がっています。
要因として、谷川航がつり輪、跳馬、田中が平行棒、鉄棒と得意種目で高得点を連発して平均得点を上昇させたこと、この2人が得意種目を補完し合うような効果的な組合せであったことが言えると思います。とはいえ、第2位、第3位の組合せとのチーム得点の差は0.100未満。上位の組合せは誰が来てもおかしくない僅差の勝負であったことが分かります。
5人目の代表はチーム得点と世界選手権:種目別決勝での表彰台の双方を考慮するということになっていますが、チーム得点のみを考えると上位は以下の選手となりました。Totalの下段()は5人目の選手が上昇させたチーム得点、いわゆる貢献度です。
1st | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.849 | |||
2 | 白井健三 | 15.433 | 15.000 | 14.049 | |||||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | | ||
7 | 田中佑典 | 14.144 | 15.266 | 14.655 | |||||
3 | 萱和磨 | 14.822 | 14.910 | ||||||
Total | 44.654 | 42.971 | 42.598 | 44.465 | 45.087 | 43.553 | 263.328 | ||
(1.222) | (0.310) | (1.532) | |||||||
2nd | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.600 | 14.849 | ||
2 | 白井健三 | 15.433 | 15.000 | 14.049 | |||||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | | ||
7 | 田中佑典 | 14.144 | 15.266 | 14.655 | |||||
長谷川智将 | 15.021 | ||||||||
Total | 44.654 | 43.170 | 42.598 | 44.465 | 44.777 | 43.553 | 263.217 | -0.111 | |
(1.421) | (1.421) | ||||||||
3rd | |||||||||
FX | PH | SR | VT | PB | HB | ||||
1 | 内村航平 | 14.599 | 14.250 | 14.133 | 14.466 | 14.849 | |||
2 | 白井健三 | 15.433 | 15.000 | 14.049 | |||||
5 | 谷川航 | 14.622 | 13.899 | 14.321 | 14.999 | 14.911 | | ||
7 | 田中佑典 | 14.144 | 15.266 | 14.655 | |||||
4 | 谷川翔 | 14.533 | 15.055 | ||||||
Total | 44.654 | 42.682 | 42.598 | 44.465 | 45.232 | 43.553 | 263.184 | -0.033 | |
(0.933) | (0.455) | (1.388) |
ここで最も貢献度が高かったのは萱。あん馬と平行棒で合わせて1.532もチーム得点を上昇させました。谷川翔も同じくあん馬と平行棒でチームに貢献しますが、萱に及ばず第3位のポジションとなっています。そして、ここで第2位にまで食い込んできたのがNHK杯ランキング外のスペシャリスト長谷川智将。全日本個人予選からあん馬では常に高得点を出し続け、全日本種目別決勝では15点台をマーク。あん馬1種目だけで1.421もチーム得点を上げてきました。
5人目の代表は、チーム得点を優先して萱とするか、種目別決勝での表彰台を期待して長谷川とするか、がポイントであったと思われます。決め手は長谷川が全日本種目別決勝で出した15.133。2018年の国際大会における得点をまとめているCourtyard Tapirさんのこのスプレッドシートによると、今季のあん馬の上位は
1 | 李智凱(台湾) | 15.333(WCC・オシエク大会:決勝) |
2 | 翁浩(中国) | 15.266(WC・バクー大会:予選) |
3 | マックス・ウィットロック(イギリス) | 15.150(コモンウェルスゲームズ:予選) |
3 | サミュエル・ミクラック(アメリカ) | 15.150(パシフィックリム選手権:個人総合) |
であり、長谷川の15.133は世界のトップ3にわずかに及ばないことが分かります。代表選考に用いられた日本体操協会の世界ランキングがどのようなものであったかは分かりませんが、このような結果に基づき、チーム得点を優先して萱が選考されたのかもしれません。どこまでも仮定の話にはなりますが、長谷川が出した得点が15.166以上であればどうだったのか、気になるところではあります。
ともあれ、2018年世界選手権の日本チームはかなり強力なメンバーになったと思います。上の計算では内村が5種目演技することになっていますが、萱のつり輪は内村と端数処理の差しかなく、内村を4種目にすることも十分に可能でしょう。10月の世界選手権に向けた戦いがいよいよ本格化してきます。
この記事へのコメント
toolucky
個人総合での代表でありながら床と跳馬で大きな貯金をつくる特異なオールラウンダーである白井選手と、今回代表に決まった三選手の間でで、得点を見事に補完しあっている関係が鮮明に表されていると感じました。
また谷川航選手は床と跳馬でも貢献でき、団体決勝を想定すると、仮につり輪で内村選手でなく萱選手を起用した場合、各選手の実施種目数は、谷川航=5、内村=4、白井・田中・萱=各3、となり、谷川航選手の貢献度が際立つように思います。
団体でのライバルは間違いなく中国であると思われますが、今回のメンバーは必ずやってくれると信じます。
Ka.Ki.
ユーマォ
それぞれ、得意種目ですが、ここでどれだけEスコアを稼げるかが、結果に直結すると思います。
谷川と田中はそれぞれ着地、萱は倒立姿勢や握り直し、白井は空中姿勢、捻り時の足先の割れ、あたりが課題でしょうか。
tokubay
この項の話題ですが、最初に代表メンバーを聞いた時に、田中選手がスペシャリスト枠だと勝手に思っていたので、とても驚きました。まさか萱選手だとは、、、
それと、長谷川選手がこれほどの僅差で代表落選というのも面白です。計算違いでアジア大会代表も落選しかけましたがなんとか選出されて良かったです。
世界選手権には素晴らしい選手達が選ばれましたが、アジア大会のメンツも負けず劣らずいい選手が揃っているので、団体戦の中国のバリバリ一軍の選手たちにどのくらい食い下がれるか期待です!
太一
それにしても思い起こすのは同じく新鋭だった頃の内村選手の事例です。
彼は北京五輪で五輪および世界選手権のフルメンバー初代表となりましたが、その前年のシュツットガルト世界選手権の代表はぎりぎりで落選しているんですよね。確か種目別ポイントで鹿島選手と並んでいたものの、最終的に選考対象競技会全てであん馬で1位の成績を残した鹿島選手が選ばれたと記憶しています。
その時の無念さを内村選手の口から聞く機会はなかったのですが、その悔しさを糧として北京五輪の代表を掴み取ったに違いないと思います。
今回は翔選手が世界選手権に出られないのは残念に思いますが、アジア大会は中国がベストメンバーで挑む構えを見せており、彼が経験を積むということでは申し分のない大舞台と言えます。
世界選手権では日本のフルメンバーでさえ団体で勝つことが難しいと思われる中国代表相手のシビアな戦いを経て、翔選手(および日本の若手選手ら含め)更なる成長を見せてくれることを期待しています。
アドラーひねり
今回の日本メンバーを見るとバランスは非常に良いと思いましたが課題を上げるとしたら私はあん馬、跳馬、鉄棒であると考えています。理由としてはあん馬は内村選手、萱選手は安定して14点台が獲得できますが3人目の谷川航選手が14点台になかなか乗せれていないのが心配です。跳馬に関しては現在は団体戦で優勝やわ争う国の選手はほぼ5.6以上の跳躍を3人が跳んできます。今回の日本代表選手は5.6が2名、5.2が2名、4.8が1名と海外勢に比べやや劣ります。内村選手がヨーIIを跳び、谷川選手がブラニクを成功させることが重要になると思いました。そして最後に鉄棒です。田中選手、内村選手は問題ないのですが、白井選手世代は全体的に鉄棒を苦手な選手が多く、団体決勝で田中選手、内村選手につぐ3人目は白井選手になると思いますが、近年オールラウンダーとして成長してきていますがまだまだ鉄棒の実施には粗さが目立ちます。鉄棒では内村、田中選手は14点半ば〜後半、白井選手には確実に14点台を目指して欲しいところです。長くなりましたが、その課題を克服してぜひ団体連覇を達成して頂きたいですね
Ka.Ki.
得意種目で取りこぼしをしないことは確かに絶対条件でしょうね。
Ka.Ki.
公表されている選考方法を基に手元で計算してみたらこうなった、というだけのことです。実際のところはこの記事のとおりとは限りませんのでそこはご承知おきください。
その上での話にはなりますが、長谷川選手は本当にあと一歩というところでした。アジア選手権は是非ともその実力をいかんなく発揮してほしいと思います。中国は一軍を派遣してくるそうなのでこちらも要注目です。
Ka.Ki.
谷川翔選手は確実だと思っていたので私も驚きました。アジア大会での活躍を期待しましょう。