鉄棒のDスコアを考える

Thinking about HB D-Score


2017年最後の記事でも触れましたが、今回は鉄棒のDスコアについて考えてみたいと思います。

2017年のルール改訂で、同一グループの技が5技まで実施できるようになり、端的には鉄棒で手放し技を5つ入れることが可能になりました。また、バー上の技と手放し技との組合せ加点がなくなり、加点が得られるのは手放し技同士の組合せに限られるようになりました。

これにより、2016年まで非常に多く実施されてきたバー上の技と手放し技の組合せは、Dスコアを算出する上では意味のないものとなり、バー上の技と手放し技は関連のない個別の要素として切り分けて考えられるべきものになったのです。

すなわち、鉄棒で高いDスコアを得るためには、手放し技を5つ入れること、手放し技を連続して組合せ加点を得ること、バー上の技でも難度の高い技を入れることが明確になったと言えます。もちろん終末技でも難度の高い技を実施すべきなのは言うまでもありません。

そこで2017年以降、手放し技を5つ入れて高いDスコアを出した演技構成をいくつか取り上げ、バー上の技(グループI・III)、手放し技(グループII)と組合せ加点、終末技(グループIV)の点数の分布に着目し、その傾向を分析してみたいと思います。


内村航平 - 2017年全日本種目別選手権:決勝
UCHIMURA Kohei (JPN) - 2017 JPN Apparatus Nationals EF


バー上の技DDEC1.6
手放し技EG+EED2.6
組合せ加点0.2
終末技E0.5
Dスコア6.9

バー上の技、手放し技、終末技のいずれもが高難度で、0.2の組合せ加点も取ってDスコアは6.9。落下なく通した演技としては現在世界最高のDスコアであり、2017-2020年ルールにおける鉄棒の試金石とも言える構成。


パブロ・ブラッガー(スイス) - 2017年ヨーロッパ選手権:種目別
BRAEGGER Pablo (SUI) - 2017 Europeans EF


バー上の技DECD1.6
手放し技GED+DE2.5
組合せ加点0.2
終末技E0.5
Dスコア6.8

ヨーロッパ選手権を制した構成。手放し技が内村より0.1低いだけで、バー上の技などは同等。Dスコアは6.8となる。


齊藤優佑 - 2017年ワールドカップ・メルボルン大会:予選
SAITO Yusuke - 2017 World Cup Melbourne (AUS) QF


バー上の技DDDC1.5
手放し技G+DE+DD2.4
組合せ加点0.4
終末技E0.4
Dスコア6.7

バー上の技、手放し技、終末技のいずれも内村よりわずかに低いが、0.2の組合せ加点を2箇所で取っており、Dスコアは6.7。


ニキータ・ナゴルニー(ロシア) - 2017年ロシア選手権
NAGORNYY Nikita (RUS) - 2017 RUS Nationals


バー上の技DCDB1.3
手放し技E+DC+D+D2.0
組合せ加点0.5
終末技E0.5
Dスコア6.3

バー上の技、手放し技の難度は高くないが、組合せ加点を合わせて0.5も取っている。コバチ系、トカチェフ系の双方を使えるのも強み。


張成龍(中国) - 2017年全運会:種目別
ZHANG Chenglong (CHN) - 2017 CHN National Games EF


バー上の技DDDD1.6
手放し技GEEDD2.5
組合せ加点---
終末技E0.5
Dスコア6.6

バー上の技、手放し技いずれも難度が高く、組合せ加点は1箇所もないにも関わらず6.6というDスコアを出している。


宮地秀享 - 2017年愛知県選手権
MIYACHI Hidetaka (JPN) - 2017 Aichi Pref Champs


バー上の技BCBC1.0
手放し技IHGED3.3
組合せ加点---
終末技E0.4
Dスコア6.7

こちらも組合せ加点はないが、手放し技の難度がけた違いに高く、バー上の技の難度が低いにも関わらずDスコアは6.7にまで達するという特異な構成となっている。



一口に高いDスコアと言っても、バー上の技や手放し技、組合せ加点など各選手が得意な部分で点数を稼いでいることが分かります。このような観点で見てみると、Dスコアを高めるためにどこを伸ばすべきかということも分かりやすくなってくるのではないでしょうか。

齊藤やナゴルニーのように組合せ加点を複数箇所で取ることは非常に有利であり、今後2020年に向けてはやはり組合せ加点が重要な要素になると考えます。終末技も現在は大半の選手がD難度かE難度ですが、ここでF難度以上の技で安定した着地ができればこれも大きなアドバンテージとなるでしょう。

最後に、手放し技は5つが必須のように書きましたが、バー上の技にもD難度技、E難度技がいくつかあるため、手放し技5つは絶対ではありません。しかし、手放し技にはD難度以上の技が圧倒的に多く、世界で戦っていく上ではやはり手放し技を最大限活用していく必要があると思われます。

この記事へのコメント

  • taropy

    毎回の記事、興味深く拝見しています。
    離れ技と組み合わせ加点を増やすことが鉄棒Dスコアアップのカギであることはもちろんですが、落下のリスクや体力消耗も伴うので、選手は演技全体を通じてバランスをとりながら、終末技と9技を選んでいるのでしょうね。

    一方で夢のような話をすると、組み合わせ加点を得るための離れ技は、カウントされる10技に含まれている必要がないので、組み合わせ加点のためだけに実施されるC難度の離れ技があってもいいのですよね。

    ただし握り手の向きや抜き・あふり技術の特殊さから、連続で繰り出せる技の豊富さは、トカチェフ系よりもコバチ系のほうが勝っていると思います。コバチ系とトカチェフ系のミックスは考えにくいのではないでしょうか。

    ・コバチ、屈身or伸身コバチ、コールマン、カッシーナorピネダ・・・離れ技シリーズとして使用可能
    ・ペガン、屈身ペガン・・・シリーズの開始技としてなら使用可能?
    ・ゲイロード2、かかえ込みゲイロード2、シャハム・・・シリーズの終了技としてなら使用可能?
    ・ブレットシュナイダー、ミヤチ・・・連続技としては難しすぎる???

    以上から理論上最高のDスコアとなる技の選び方をすると、コバチ(D)やかかえ込みゲイロード2(D)がカットされるというとんでもないことになりますね。こうして机上で考えるのも楽しいものです。
    2018年02月06日 05:01
  • Ka.Ki.

    トップ10技に含まれない手放し技で組合せ加点を稼ぐ構成はまだ現れていないと思いますが、今後は見られるようになるかもしれませんね。ギンガーなどが使いやすそうな気がします。

    技の種類としては確かにコバチ系の方が豊富ですが、連続できるような安定した実施となると選手は限られてくると思います。一方、トカチェフ系の連続は古くから実施されていましたし、使い手の数となると今もこちらの方が多いように感じられます。

    コバチ系とトカチェフ系の組合せは難しいでしょうね(かつてハリコフ選手がコバチ~トカチェフとかやってましたが)。ただ、ナゴルニー選手のようにコバチ系でもトカチェフ系でも連続技ができるのはとても有利だと思います。

    あとはやはり鉄棒と言えばのゾンダーランド選手ですかね。手放し技を5つ入れた構成はまだ試合ではやってないと思いますが、練習動画などを見るにDスコア7.3くらいはいきそうな感じです。フル構成のゾンダーランド選手を早く見たいものです。
    2018年02月06日 22:09
  • nora1962jp

    はじめまして、時々ですが拝見いたしております。

    直接標題とは結びつかないかもしれませんが鉄棒の演技構成で以下のようなものを考えました。

    伸身ブレッドシュナイダー(ミナチ)
    ブレッドシュナイダー

    カッシーナ+コバチ+コールマンの連続

    降り技が
    ルドルフ(ワタナベ)

    フェドルチェンコ

    加点も0.4つくと思いますのでDスコアはけっこう高くなると思います。
    現状で実現可能性がどれくらいなのかは疑問ですが。

    ただこれらがすべて「後方2回宙返り」なのについて鉄棒の演技構成としてこれでいいのかという疑問を感じました。
    平行棒では抱え込みと屈身の姿勢だけ違うものは技の繰り返しと扱われていたと思います、
    似たような演技構成が広まると、Dスコアは高くても鉄棒種目として魅力にかけるものにならないという不安も感じています。
    2018年03月02日 05:23
  • Ka.Ki.

    仰るとおり平行棒では同じ種類の宙返り技は1つしか認定されませんね。鉄棒でこれを適用してしまうとそもそも連続技が成り立たないとは思いますが、確かにあまり偏った構成はちょっと考えるところがありますね。ご提案の技を全て入れることができるのであればそれはそれですごいことだと思いますが。
    2018年03月05日 22:25