Scherbo on VT
ヴィタリー・シェルボ(ベラルーシ)が跳馬で発表したシェルボとびは今日では滅多に見られないレア技ですが、とてもユニークでそして不可解な跳越ではないかと思います。

日本語版採点規則では「ロンダート、1回ひねり後転とび後方伸身宙返り」と表記されていますが、実際にはロンダートから3/4ひねって横向きに着手され、跳馬を突き放してから残り1/4をひねって後ろ向きになり後方宙返りをする跳越として実施されていることは周知のことだと思います。
これについては、日本語版採点規則ではグループVを「ロンダート踏切~3/4または1回ひねる技」としており、3/4ひねり着手でも1回ひねり着手でも特に区別する必要はないと考えられているようです。英語版ではグループや技の表記がもはや"Scherbo entry"となっており具体的な説明がないのですが、価値点の一般原則の条項でやはり"round-off entry vaults with 3/4 or 1/1 turn"と書かれています。
問題はロンダートから後ろ向きに3/4ひねったときの横向き着手の向きです。ひねりの方向が左の選手の場合、後ろ向きから3/4ひねると進行方向に対し左向きの横向き着手(右手が手前)になります。一般的に左ひねりの選手が行うロンダートは進行方向に対し右を向く(左手が手前)ので、カサマツとびのような横向き着手の跳越においても右向きの横向き着手(左手が手前)で跳ぶことになります。左ひねりの選手が左向きの横向き着手をするのは非常に違和感があるのではないかと推測します。
しかし、旧サイトでの記事、ツカハラとカサマツでも書いたように、体操選手の中にはひねりの方向とロンダートの向きが反対の人がいます。左ひねりなのに進行方向に対し左を向くロンダート(右手が手前)を行う選手ということになりますが、実はシェルボ選手がこのタイプでした[1]。シェルボ選手にとっては左向きの横向き着手は大きな問題ではなかったのかもしれません。
[1] シェルボ選手はロンダートが右ロンダート(右手が手前)、後方宙返りが左ひねり、前方宙返りが右ひねりでした。
では、ひねりの方向とロンダートの向きが反対でない選手がシェルボとびを跳ぶのは難しいのでしょうか。今年の2月、白井健三がワールドカップ・メルボルン大会でシェルボ2回ひねりを実施してファンを驚かせました。白井は右ひねり、右ロンダートの選手ですがしっかりシェルボとびを跳んでみせています。試合で使った選手は本家以外では初めてだったのではないかと思われます。
男子よりもロンダート入りの跳越の歴史が長い女子では何人かの使い手がいます。「ロンダート、1回ひねり後転とび後方かかえ込み宙返り」にはパトリツィア・ルコニ(イタリア)の名が付いており、発表は1985年とされています。この選手もシェルボ選手と同じ左ひねり、右ロンダートでした。
ニコリーナ・タンクシェワ(ブルガリア)も左ひねりの右ロンダートで伸身のシェルボ1回ひねりを跳んでいます。2本目には伸身ツカハラ1回ひねりを跳んでおり、ひねりの方向とロンダートの向きが反対だと跳馬に着手する向きが揃うことが分かると思います。
一方、カン・ユンミ(北朝鮮)は左ひねりの左ロンダートでしたが、こちらもシェルボ1回ひねりを跳んでいます。白井もそうですが、ひねりの方向とロンダートの向きはそこまで大きな問題ではないのでしょうか。
そしてやはり気になるのは価値点です。男子ではシェルボ2回ひねりを例に取ると現在の価値点は5.4。伸身ユルチェンコ2回ひねりが4.8なので同じ第2局面を持つユルチェンコとびより0.6高い価値点が与えられていることになります。2016年まではこの差が0.4であり、2017年のルール改訂で実質0.2格上げされたわけですが、トータルのひねりの回数や着手の難しさなどを考えるともっと価値点が高くてもいいという見方もあるかもしれません。
ちなみに女子では姿勢やひねり回数によって0.6~0.8の差とばらつきがあり、男子のような明確な法則はないようです。
この記事へのコメント
フォレストの森
個人的には跳馬の魅力は第二局面にあると思うので、第一局面に動きを足すのは本質的でないような…
Ka.Ki.
タージマハル
Ka.Ki.
シェルボとび第1局面の3/4ひねりを逆にひねるということでしょうか。確かにそうすると着手後はカサマツとびの様にひねることができそうですね。何かもう訳が分からなくなりそうですが(笑)、とても興味深いです。