Dスコアの算出方法

Calculation of D-Score


旧サイトの記事の焼き直しではありますが、ルールも新しくなったのであたらめて確認しておきたいと思います。2020年東京オリンピックでも適用されることになるルールです。

体操競技における演技の決定点はDスコアとEスコアの合計によって算出されます。DスコアはDifficulty、すなわち演技内容の難しさを表したもので、EスコアはExecution、すなわち演技実施の完成度を表しています。

今回はDスコアの算出方法についてです。なお、跳馬については一つ一つの跳越技に対してDスコアが定められているので、ここでは跳馬以外の5種目(ゆか、あん馬、つり輪、平行棒、鉄棒)のDスコアの算出方法について説明します。



Dスコアを算出するためには、個々の技の難度を把握しておかなければならないことは当然ですが、その前に各種目のあらゆる技がI~IVの4つのグループに分類されている[1]ことを理解しておかなくてはなりません。例えば、鉄棒の技のグループは、

I懸垂振動技Long Swing
II手放し技Flight
IIIバーに近い技・アドラー系の技In Bar
IV終末技Dismounts

となっています。ちょっと分かりにくい言葉もありますが、グループIは車輪系の技、グループIIIのバーに近い技とはシュタルダーやエンドーのような技です。手放し技は数多くの技がありますが全てグループIIです。

[1] ゆかは終末技のグループ(IV)がないためI~IIIの3グループに分類されています。



本題に入りましょう。Dスコアは難度価値点(DV)、組合せ加点(CV)、要求グループ点(EGR)の合計によって算出されます。

難度価値点は、難度の高い9技と終末技の合わせて10技の価値点の合計点です。同一グループの技は5技まで認められます。同じ技(難度表における同一枠の技)を繰り返してもDスコアには計上されません。各技の価値点は以下のとおり。

難 度ABCDEFGHI
価値点0.10.20.30.40.50.60.70.80.9

組合せ加点は、ゆかと鉄棒において適用されます。

ゆかの組合せ加点は以下のとおりとなっており、一演技につき2回まで適用されます。ただし、切り返しの組合せには加点が与えられないという制限があります。
・D難度以上+B・C難度=0.1(逆も可)
・D難度以上+D難度以上=0.2

鉄棒の組合せ加点は手放し技同士の組合せに限られ、以下のとおりとなっています。
・C難度+C難度以上=0.1(逆も可)
・D難度以上+D難度以上=0.2

要求グループ点は、各グループの技を最低1つは演技に含めることを目的とするものです。I~IIIの各グループの技が演技に含まれていれば各0.5点が、終末技(グループIV)はD難度以上について0.5点が与えられます。終末技がC難度の場合は0.3点、A・B難度の場合は0.0点となってしまいます。したがって、要求グループ点は最大で2.0点となります。

つまり、演技はトップ10技を各グループ1技以上5技以内でバランスよく構成し、終末技はD難度以上であることが要求されているということになります。



それでは、内村航平の2014年世界選手権・南寧大会:種目別の鉄棒を例に、2017年版採点規則を適用して具体的にDスコアの算出方法を確認してみましょう。


鉄棒の演技の採点は選手の足がマットから離れた時点から開始されます。この演技で内村が実施している技は繰り返しを除くと以下のとおり。

技名難度グループ
1.懸垂振り出し倒立AIII
2.後ろ振り上がり倒立AI
3.前方車輪AI
4.アドラーひねりDIII
5.伸身トカチェフDII
6.後方車輪AI
7.カッシーナGII
8.~コールマンEII
9.シュタルダーとび3/2ひねり片大逆手DIII
10.アドラー1回ひねり片逆手DIII
11.ヤマワキDII
12.エンドーBIII
13.前方車輪ひねりAI
14.後方とび車輪1回ひねりCI
15.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV


ここから難度の高い9技と終末技の合わせて10技を抜き出すと以下のとおりとなります。

技名難度グループ
1.アドラーひねりDIII
2.伸身トカチェフDII
3.カッシーナGII
4.~コールマンEII
5.シュタルダーとび3/2ひねり片大逆手DIII
6.アドラー1回ひねり片逆手DIII
7.ヤマワキDII
8.エンドーBIII
9.後方とび車輪1回ひねりCI
10.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV

A難度技は消えました。同一グループの技は5技以内に収まっています。


カッシーナ~コールマンはG+Eの組合せになるため、0.2の加点が付きます。各技の価値点と組合せ加点を書き加えると以下のようになります。

技名難度グループ価値点組合せ加点
1.アドラーひねりDIII0.4
2.伸身トカチェフDII0.4
3.カッシーナGII0.7
4.~コールマンEII0.50.2
5.シュタルダーとび3/2ひねり片大逆手DIII0.4
6.アドラー1回ひねり片逆手DIII0.4
7.ヤマワキDII0.4
8.エンドーBIII0.2
9.後方とび車輪1回ひねりCI0.3
10.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りEIV0.5
Total:4.20.2

要求グループ点は、I~IIIの各グループの技が含まれ(0.5点×3グループ)、終末技はD難度以上(0.5点)なので満額の2.0点が与えられます。したがって、

難度価値点4.2
組合せ加点0.2
要求グループ点2.0
Dスコア(合計)6.4

となります。



Eスコアは複数の審判によって採点されその平均を取ることで算出されますが、Dスコアは一つの演技に対し必ず固有のDスコアが求められるはずです。しかし審判も人間ですから間違えることがないとは限りませんし、選手が大きなミスや曖昧な実施をするなどした場合は判定に迷うこともあるでしょう。

そのためオリンピックや世界選手権を始めとするFIG公式の競技会においてはD審判が2人配置されることになっており、共同してDスコアを判定することになっています。

さらに、FIG技術委員が務める各種目のスーパーバイザーが算出したDスコア(ASスコア)との間に一定以上の乖離が発生した場合は、直ちに得点算出システムが停止してスーパーバイザーの介入が行われることになっています。D審判が算出したDスコアをDJスコアとしたとき、その対象となる得点差は以下のとおりです。

・予選ASスコアよりもDJスコアが0.3高い、または 0.5低い
・団体決勝、個人総合ASスコアよりもDJスコアが0.2高い、または 0.5低い
・種目別決勝ASスコアよりもDJスコアが0.1高い、または 0.5低い

この記事へのコメント

  • Rui

    コメント失礼します。
    前ホームページからこちらへとんできました。
    こちらの記事と関係のないことで申し訳ないのですが、私はいま卒業研究で体操競技のルール変更などについて調べています。そこで前ホームページにあるルール変更についての記事を拝見させていただきました。非常にわかりやすく細かく書いてあったため、どのように情報を入手したのか、また、ルール変更は一番初めの変更から今現在のルールに至るまでどう変化していったのかを知りたくてコメントさせていただきました。知っている範囲でよいのでぜひ教えていただければ幸いです。返信お待ちしています。
    2017年06月15日 12:28
  • Ka.Ki.

    Ruiさん、ようこそお越しくださいました。

    ルール変更に関する記事は、FIGのWebサイトで公開されているCode of PointsやNewsletterを見て、その内容をまとめているだけです。

    最初の採点規則は1949年版とされており、現在まで非常に長い歴史があります。ルール変更について研究されているということであれば、代々の採点規則を見ていくことになると思いますが、既存の論文もたくさんありますのでまずは調査してみるとよいのではないでしょうか。
    2017年06月17日 21:17
  • Rui

    お返事ありがとうございます。
    参考にさせていただきます。
    ご丁寧な対応ありがとうございました。
    2017年06月20日 15:51