内村航平 - 2017年NHK杯:個人総合の演技

UCHIMURA Kohei (JPN)
2017 NHK Trophy AA


2017年のNHK杯は内村航平が白井健三らの猛追を振り切って9連覇を果たしました。合わせて、個人総合の40連勝を達成しています。演技構成を確認しておきましょう。

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#1 ゆか FX

1.前方伸身宙返り1回ひねりFront Lay 1/1CII
2.~前方伸身宙返り5/2ひねり+ Front Lay 5/2EII(CV:0.1)
3.後方伸身宙返り5/2ひねりBack Lay 5/2DIII
4.~前方伸身宙返り2回ひねり+ Front Lay 2/1DII(CV:0.2)
5.後方かかえ込み2回宙返り2回ひねりDouble Back 2/1EIII
6.後方伸身宙返り3/2ひねりBack Lay 3/2CIII
7.~前方伸身宙返り3/2ひねり+ Front Lay 3/2CII
8.フェドルチェンコFedorchenkoCI
9.後方伸身宙返り2回ひねりBack Lay 2/1CIII
10.後方伸身宙返り3回ひねりBack Lay 3/1DIII

D:6.0
E:8.600
Score:14.600

4月の全日本選手権のときと同じ構成。安定した実施を見せるが、一方で完全に止まった着地はなかった。得点は全日本より0.300低い。


#2 あん馬 PH

1.逆交差倒立Back Scissor to HdstDI
2.横向き旋回CircleAII
3.一把手上縦向き旋回Pommel LoopBII
4.Eフロップ4 FlopsEII
5.Dコンバイン2 Flops + R180DII
6.ロスRussian Travel 3/3 360DIII
7.ウ・グォニアンRussian Travel 3/3 720EIII
8.マジャールMagyarDIII
9.シバドSivadoDIII
10.一把手上縦向き旋回倒立3/3移動下りP Loop to Hdst Travel 3/3DIV

D:5.7
E:8.700
Score:14.400

こちらも全日本と同じ構成。全日本では終末技でミスがあったが、今回は終始安定した実施を見せる。


#3 つり輪 SR

1.後ろ振り上がり中水平支持Back Uprise to MalteseEIII
2.アザリアンBack Roll to CrossDII
3.後ろ振り上がり十字倒立Back Uprise to Inv-CrossDIII
4.後ろ振り上がり倒立Back Uprise to HdstCI
5.屈身ヤマワキYamawaki PkDI
6.ヤマワキYamawakiCI
7.ホンマ十字懸垂Whippet to CrossDIII
8.ほん転逆上がり倒立Felge to HdstCI
9.後方車輪倒立経過Back Giant thru HdstBI
10.後方かかえ込み2回宙返り2回ひねり下りDouble Back 2/1EIV

D:5.7
E:8.300
Score:14.000

2016年、そして全日本では使っていなかった後ろ振り上がり十字倒立を久々に入れている。中水平支持(D)の替わりなのでDスコアは同じ。力技で肘を伸ばして捌く練習をしていると報じられていたが、最初の後ろ振り上がり中水平ではその成果が見られる。十字倒立を入れてきたのは、肘を伸ばしてけ上がり中水平を実施するのが難しいためか。着地は小刻みに動く。


#4 跳馬 VT

DEPenScore
シューフェルトYurchenko Lay 5/25.29.25014.450

跳馬は今回もシューフェルト。着地は両足前に1歩跳ねる。


#5 平行棒 PB

1.前振り上がりFront UpriseAII
2.マクーツMakutsEI
3.ヒーリーHealyDI
4.棒下宙返り倒立Basket to HdstDIII
5.後方車輪倒立Back Giant to HdstCIII
6.ハラダFront Uprise Back Toss 1/2DII
7.モリスエMorisueDI
8.懸垂前振り後方かかえ込み宙返りひねり腕支持Giant Back Toss 1/2DIII
9.前方開脚5/4宙返り腕支持5/4 Front StrdDI
10.後方屈身2回宙返り下りDouble Back PkDIV

D:5.7
E:8.600
Score:14.300

Dスコアを抑え5.7にすると報じられていたが、抜いてきたのは全日本でミスがあったマクーツではなく、棒下ひねり倒立(E)とベーレ(D)だった。目立ったミスなく安定した実施。着地は両足前に1歩。


#6 鉄棒 HB

1.屈身コバチKovacs PkEII
2.カッシーナCassinaGII
3.シュタルダーとび3/2ひねり片大逆手Stalder Hop 3/2 to MGDIII
4.アドラーひねりJam 1/2DIII
5.コールマンKolmanEII
6.アドラー1回ひねり片逆手Jam 1/1 to MGDIII
7.ヤマワキYamawakiDII
8.エンドーEndoBIII
9.後方とび車輪1回ひねりHop 1/1CI
10.後方伸身2回宙返り2回ひねり下りDouble Back Lay 2/1EIV

D:6.3
E:8.500
Score:14.800

鉄棒は全日本と同じ構成。今回も落下は許されないという状況の中、手放し技は全体的に近い。しかし全日本のときほどの肘の曲がりはなく、全体としてはノーミスの演技という印象。着地は珍しく片足が1歩後ろに出る。

Total Score:86.550 (Total D:34.6)
Combined Total:172.900
Rank:1st



Dスコアを抑えると報じられていた内村ですが、NHK杯の合計Dスコアは34.6。全日本では平行棒でマクーツを抜いて34.7だったため、実質的にはほとんど変わらない難度で臨んでいたことになります。その上で、いつもの安定した実施が出れば敵う選手はいないと思われましたが、今回はそのような展開にはなりませんでした。

全日本3位、持ち点0.250差の白井健三がゆかでロケットスタートを切り、内村と抜きつ抜かれつの攻防を演じます。5種目目を終えた時点では白井がなんと0.500リード。全日本のときの0.050差とは文字どおり桁が違います。しかし、報道によればこの展開すら内村の想定どおりだったといいます。確かにお互いの鉄棒のDスコアを考慮すれば0.500すら慌てる点差ではありません。

白井が先に鉄棒を終え、最終演技者の内村に必要な点数は14.450以上になりました。これは全日本における鉄棒の得点と全く同じ。つまり「今までで一番悪い」出来だったという全日本より良い演技をすればいいということになります。得点を見るまでもなく、演技を終えた瞬間に内村の優勝を確信した人は多かったのではないでしょうか。

とはいえ、体操競技という繊細かつ過酷な競技で、ここまで冷静に状況や展開を分析し、さらにはそれに基づいて一つ一つの演技をミスなく遂行していくのは並大抵のことではありません。これまで幾度となく前人未到の偉業を果たし、6種目の戦い方を誰よりも熟知している空前絶後の王者であればこそ成し得ることができたと言えるでしょう。

この記事へのコメント

  • joshiki77

    初めまして旧サイトから毎日拝見させていただいております。
    私は競技経験がないただの体操好きですがよろしくお願いします。
    今回のNHK杯は全日本と通して、私自身が現行のルールの決定点に慣れるために何度も繰り返し見ていますが、内村さんはやはり素晴らしいですね。本人としては課題の残る着地が多かったのではないかと思いますが…
    報道では内村さんと白井さんのコメントなどが、大きく取り上げられていますが、私としては谷川航さんのコメントが興味深いです。
    跳馬の種目別を狙っているようで、「時間が間に合えばひねりを加えたい」というコメントに驚きました。ロペスハーフまたはリセグァン2のどちらかと思いますが、おそらくリセグァン2の可能性が高いでしょうか、6月の種目別選手権が楽しみです。
    2017年05月25日 21:11
  • Ka.Ki.

    はじめまして。いつもご覧いただきありがとうございます。

    谷川航選手の跳馬も楽しみですね。ブラニク、ロペスともに完成度が高いのでぜひ6.0の跳越に挑戦してほしいと思います。
    2017年05月25日 23:15
  • ユーマォ

    以前も同様の主旨の発言をしていますが、改めて。
    いつまで内村航平が絶対的王者でいなければならないのだろうか。
    内村航平の偉大さ、それと演技の美しさは誰もが認めるところです。
    が、彼は年齢的に、おそらくピークを過ぎようとしているところです。
    強い日本の体操を継承するならば、もうそろそろ内村航平を実力で抜く選手が出て来ないとまずい。
    そしてそれは白井、萱、神本あたりの世代、あるいはそれより下の選手でないとまずいです。
    少なくとも、今回の大会のように「余裕で優勝」っていうのは、流石に危機感感じます。
    2017年05月27日 00:48
  • S&G

    いつも拝見させていただいています。
    素人の自分にもとてもわかりやすくて、大変勉強になります。
    不調ながらも、あの圧倒的な演技。
    言葉では言い尽くせないほどの感動で魅せられました。
    ここから世界選手権まで、どこまで上げていくのでしょう。
    そして、東京五輪へと続く3年・・・
    どれほど険しい道のりか計り知れませんが、
    内村選手の演技が見続けられるだけで、
    ただもう楽しみで楽しみでなりません。
    2017年05月27日 15:42
  • Ka.Ki.

    >ユーマォさん
    内村選手が別格過ぎるということでしょう。他の選手のレベルが決して低いわけではないと思っています。今回は余裕だったという見方もできる一方で、ミス一つでどうなるか分からない展開でもありました。絶対にミスをしないところが内村選手の凄さであり、ここは若い選手にぜひ見習ってほしいと思います。

    その上で、各選手もう少し難度が欲しいところではあります。同じくらいのDスコアでは内村選手にはまず勝てないわけですから。その点では白井選手の積極姿勢が素晴らしいと思います。
    2017年05月27日 23:10
  • Ka.Ki.

    >S&Gさん
    いつもご覧いただきありがとうございます。

    おそらく内村選手のことですから全ては2020年東京オリンピックの団体を第一に考えていると思います。年齢的にももう派手にDスコアを上げていくことはないかもしれませんが、その上での過ごし方、戦い方を考え、実践していくことでしょう。本当に楽しみですね。
    2017年05月27日 23:16