セア倒立に思う

Thinking about Scissor to Handstand on PH


あん馬のいわゆるセア倒立は片足振動から倒立に上げる技で、グループIで最高となるD難度が取れるため今日多くの選手によって実施されている技です。

2017年のルール改訂では、このセア倒立において支持の手を換えることが要件になりました[1]。これは倒立に持ち込んだ時の支持手とは反対の手で振り下ろすことを意味しており、支持部(要するに上半身)が技の開始時とは反対向きになります。手を換えないと、つまり同じ支持手で振り下ろすと、支持部の向きは開始時と変わりません。

[1] 正確には「一把手上のすべての交差倒立技は、支持の手あるいは把手を変えなければならない」という記述です。ポメルを換えると、つまり倒立したときと反対のポメルに移行して振り下ろすとブライアン(正交差1/4ひねり倒立1/4ひねり逆把手に片腕支持逆交差入れ)という技などになりますが、この記事ではブライアン系は取り扱わないものとします。


D難度が得られるセア倒立は難度表では正交差倒立と逆交差倒立の2技だけですが、実態として様々な捌き方が存在すること、そして、いずれ何らかの制限がかかる可能性があることはこれまでも指摘されていました(1)。一体どういうことで、何がどうなるのか、動画も見ながら説明していきたいと思います。

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これまでセア倒立の捌き方には、正交差倒立逆交差倒立という2つの入り方に対し、振り下ろすときに向きを変えない(手を換えない)ものと向きを変える(手を換える)もの、脚部が正交差入れになるものと逆交差入れになるものがあり、全て掛け合わせると8とおりのパターンがありえました(そもそもこの「交差倒立」や「交差入れ」という表記にもおかしいところがあるのですが、これについては後述します)。FIGの2015年世界選手権・グラスゴー大会の予選動画からそれぞれの実施例を見ておきましょう。分かりやすいように選手のあん馬に対する向き、振動の方向が全て同じになる映像で揃えました。

・パターン1 正交差倒立、向きを変えず、正交差入れ

・パターン2 正交差倒立、向きを変えず、逆交差入れ

・パターン3 正交差倒立、向きを変えて、正交差入れ

・パターン4 正交差倒立、向きを変えて、逆交差入れ

・パターン5 逆交差倒立、向きを変えず、正交差入れ

・パターン6 逆交差倒立、向きを変えず、逆交差入れ

・パターン7 逆交差倒立、向きを変えて、正交差入れ

・パターン8 逆交差倒立、向きを変えて、逆交差入れ

こういうときにFIGの予選動画は本当に重宝します。グラスゴーの全てのあん馬の演技を確認したところ、予選の演技者237人中セア倒立の実施者は103人でした。一演技に正交差倒立と逆交差倒立の両方を入れている選手が28人いたため、技の出現数としては131となり、パターン別の分布は以下のとおりでした。
・パターン1正交差倒立、向きを変えず、正交差入れ8
・パターン2正交差倒立、向きを変えず、逆交差入れ4
・パターン3正交差倒立、向きを変えて、正交差入れ12
・パターン4正交差倒立、向きを変えて、逆交差入れ40
・パターン5逆交差倒立、向きを変えず、正交差入れ4
・パターン6逆交差倒立、向きを変えず、逆交差入れ7
・パターン7逆交差倒立、向きを変えて、正交差入れ15
・パターン8逆交差倒立、向きを変えて、逆交差入れ41

ルール改訂により、今後セア倒立は向きを変えるパターン3、4、7、8の捌き方に限られることになります。この結果によれば向きを変える実施は108/131(82.4%)と元々多数派であったことが分かります。ちなみに採点規則の難度表に載っている図は正交差倒立がパターン3、逆交差倒立がパターン7です。

同じ国の選手は同じパターンの捌き方が多かったりというお国柄もあり興味は尽きないわけですが、日本の選手は向きを変えないパターン6の実施が多いという傾向があることは重要なポイントです。この2015年の代表も、内村航平、加藤凌平、早坂尚人、萱和磨の4人がパターン6。田中佑典のみがパターン4と8という実施状況でした。オリンピックで代表に返り咲いた山室光史もパターン2と6を実施していました。

国内の大会でもこの傾向は見受けられ、わが国ではルール改訂への対応を迫られているということが言えそうです。先日のアメリカンカップに出場した加藤もすでにパターン7で捌いており対応を見せていました。




さて、実は問題はここからです。それは、向きを変えれば必ずしも交差が成立するわけではない、ということです。そもそも「交差」の定義とは何でしょうか。「交差ひねり」とはどういうことなんでしょうか。長くなってきたので、次回に続きたいと思います。

参考文献
(1) 仲宗根森敦:あん馬における片足振動から倒立経過する技の実施に関する問題, 研究部報No.114, 日本体操協会 (2015)

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