Curious Case of Hypolito on FX
前回の記事でゆかの後方2回宙返りとアラビアンダブルの難度についてまとめましたが、今回はその中からアラビアンダブルに1回ひねりを加えたイポリトについて書いてみたいと思います。
イポリトはブラジルのゆか職人ディエゴ・イポリトが発表した「後ろとびひねり前方屈身2回宙返り1回ひねり」という技です。発表された年や大会は正確には分かりませんでしたが、2007年2月の『男子体操競技情報14号』にて新規追加技として通達されているため2006年に発表されたのではないかと思われます。難度は当時最高のF難度でした。図はどう見ても伸身ですが、表記はちゃんと"piked"(屈身)になっています。

その2006年のワールドカップ・サンパウロ大会の動画がこちらで、確かに1本目でイポリトを実施しています。このオリジナル技を入れた構成で翌2007年には世界選手権・シュトゥットガルト大会を制しています。
2009年12月の通達(Newsletter #24、『情報17号』)では、かかえ込みと伸身の難度が定められ、かかえ込みはE難度、伸身は屈身と同一枠のF難度となりました。かかえ込みは、難度表では単独の枠はなく、「屈身or伸身」の枠に"Hypolito tucked = E"と記されただけの、同枠別技という扱いでした。

2013年のルール改訂でイポリトの扱いは大きく変わります。後ろとびひねり系のグループIVから、後方系のグループIIIとして扱われることになり、後方2回宙返り3/2ひねりと同一枠になったのです。前回の記事で表にしたとおり、後方2回宙返りの3/2ひねりは1回ひねりと同一枠だったため、かかえ込みと屈身はD難度、伸身はE難度となりました。屈身のイポリトはF難度からD難度へ2段階もの格下げになってしまったのです。

これは2010年世界選手権・ロッテルダム大会で、アラビアンダブルに3/2ひねりを加えた新技が申請されたことが影響しているかもしれません。同大会でこのような技は「グループIVの技として発展性を考えられないと判断」(Newsletter #25、『情報18号』)され、グループIIIの後方2回宙返り2回ひねりと同一技と判定されました。確かにここまでひねりが加わるともはや後方系との明確な境界がなくなってしまいます。2013年のルール改訂時に、1回ひねりのイポリト系も同様であると判断された可能性は否定できません。
まったく使い手のいなくなってしまったイポリトですが、2017年のルール改訂では一転して難度が上がることになりました。今回の改訂ではグループIVの解消に伴い全ての後ろとびひねり系の宙返りが後方系として扱われることになったのですが、一方で前方着地になるものが格上げとなったため、再びかかえ込みはE難度、伸身はF難度になったのです。難度表の「後方かかえ込み2回宙返り3/2ひねり」の枠には"Also Korosteljev"とコロステリェフ(後方伸身宙返り3/2ひねり前方かかえ込み宙返り)と同一枠であるという表記しかありませんが、かかえ込みイポリトの捌きも当然に含まれるものと考えるべきでしょう。

問題は屈身の扱いです。2017年版の難度表には、1回ひねりを超える後方2回宙返りはかかえ込みと伸身しか記載されておらず、もともと屈身の宙返りであったイポリトに該当する枠がありません。「後方伸身2回宙返り3/2ひねり」の枠には"Also Hypolito"と記載されており、イポリトは「屈身or伸身」という枠だった時代を経て、いつの間にか伸身の技になってしまったかのようです。
このイポリトのグループや難度の経過を表にまとめると以下のようになります。姿勢の扱いや難度の度重なる変更はとても同じ技とは思えないほどで、まさに数奇な運命をたどった技と言えるでしょう。
グループ | かかえ込み | 屈身 | 伸身 | |
---|---|---|---|---|
2006-2008 | IV | - | F | - |
2009-2012 | IV | E | F | |
2013-2016 | III | D | D | E |
2017-2020 | III | E | - | F |
今後、イポリトを屈身で実施した場合はどう判定されるのでしょうか。旧サイトで記事にした2017年版採点規則のQ&Aによると、難度表にない屈身宙返りは、D審判によって伸身宙返りと判定され、E審判によって「あいまいな姿勢」の減点が課されることになっています。これは1回宙返りに関する事項だと思っていましたが、イポリトのような2回宙返りにも同様に適用されるものと考えた方がいいかもしれません。
この記事へのコメント